大阪にほれ込んで70年、街と人を撮り続けた写真家、糸川燿史さんの回顧展が大阪大学中之島芸術センター(大阪市北区中之島)で2024年5月14日から6月9日まで開かれている。
大阪を最も愛した写真家
糸川さんは知る人ぞ知る大阪を代表する、というよりは大阪を最も愛した写真家だった。
町の何気ない風景、そこに集まる人を撮った膨大な写真が保存されている。とくに、大阪のフォークソングの始まり、吉本や関西芸人の若き日の姿は懐かしく、貴重な記録である。
長年、病気と闘ってきた糸川さんは自らの回顧展を準備してきたが、開催が迫った2024年2月に亡くなり、追悼展になってしまった。次男の糸川仁史さんらが引き継いで、開催にこぎつけた。
糸川さんは三重県の出身だが、大阪で写真を撮るうちに大阪こそ最高の被写体だとほれ込む。
大阪の人気小説家、田辺聖子さんとは若き日に文通から始まる交流を続け、大阪愛は深まるばかり。吉本との出会いも、大阪の芸人を撮り続けるうちに「まるで専属の写真家のようになってしまった」と言っていた。
「どうしてこんな写真が?」奈良県・吉野で撮影した名作
糸川写真には独特の名作がある。
たとえば、奈良県の吉野で撮影したキャデラックに乗った、いや、キャデラックの屋根に乗った人は、どうしてこんな写真がと思わせる傑作だ。たまたま出かけた吉野で法事に集まっていた家族を見つけ、その人が乗っていたキャデラックをこの構図で撮影したものだった。
脈絡もないように見える写真の数々だが、共通するのは大阪の懐かしさ。関西には糸川ファンは多く、回顧展は糸川さんが生前呼んでほしいと言っていたミュージシャンたちが集まるイベントも開かれる。歌手の有山じゅんじや大塚善章クインテッド、嘉門タツオさんら多数だ。
そのイベントの司会をするのが長年、糸川さんの応援団だった今井晴日さん。彼女は大阪道頓堀のきつねうどんの名店「道頓堀今井」の娘である。
素晴らしい写真の数々をお見せしたいところだが、タレントの肖像権もあって難しく、ここに掲載した一部の写真で大阪を味わってほしい。もちろん展覧会では、著名芸人の若き日の姿を含めて数百点が展示されている。