コロナ禍を踏まえた政府の感染症対策の「行動計画」の改定案に「偽・誤情報」対策が盛り込まれ、これが政府による検閲や情報統制につながるのではないかという懸念が出ている。
改定案に盛り込まれているのは、「科学的根拠が不確かな情報」や「偽・誤情報」の拡散状況をモニタリング(監視)し、「科学的知見等に基づいた情報を繰り返し提供・共有」する、という内容。知見が乏しい新たな感染症について政府が「偽・誤情報」を正しく判断できるのか、言い換えれば「官製ファクトチェック」は機能するのか、という疑問はくすぶり続けており、2024年5月13日の参院行政監視委員会でも取り上げられた。
「偽・誤情報」へのモニタリングなど盛り込むが...
改定されるのは「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」。4月24日の有識者会議で改定案が大筋で了承された。反響は大きく、5月7日まで行われたパブリックコメント募集では、19万件以上の意見が寄せられた。6月には閣議決定する方針だ。
改定案で特に問題視されているのが、第4章「情報提供・共有、リスクコミュニケーション」の「偽・誤情報に関する啓発」の項目で、次のような内容だ。
「例えば、ワクチン接種や治療薬・治療法に関する科学的根拠が不確かな情報等、偽・誤情報の拡散状況等のモニタリングを行い、その状況等を踏まえつつ、科学的知見等に基づいた情報を繰り返し提供・共有する等、国民等が正しい情報を円滑に入手できるよう、適切に対処する」
日本維新の会の柳ヶ瀬裕文総務会長(参院議員)は、改定案をめぐって「偽・誤情報のモニタリングについて多くの懸念が寄せられている」として、上記の「偽・誤情報に関する啓発」の記述について「政府が偽・誤情報を、いわば検閲するかのように見える」と指摘した。誰が、何をもって「偽・誤情報」だと判定するのか、という問題だ。
偽・誤情報には「グラデーション」もありうる?
柳ヶ瀬氏は「政府が偽・誤情報を、しっかりと判断できるものもあると思う」とする一方で、偽・誤情報には「かなりグラデーションを持っているもの」もありうるとした。例として、
「今回のような新しい感染症が起きた、その時にウイルスがどういった挙動を示すのか、よく分からない。新しいテクノロジーでワクチンを開発した、でもそのワクチンがどういった効果を示すのか、副作用を持つのかというのは、一定程度は分かっていても、それが全部分かっているわけではない」
などと説明。そういったときに
「どこまで政府が『真の情報』なのか『偽の情報』なのかということを判断できるのかというのは極めて曖昧」
だというわけだ。
新しい知見が必要な事柄の真偽判断、政府は「極めて抑制的であるべき」
柳ヶ瀬氏は
「こういったグラデーションのある、新しい知見が必要なもの、知見がどんどん積み重なっていくものに関しては、真偽に関して、政府が判断をすることは極めて抑制的であるべき」
などと訴えた。
政府のネット上のコンテンツをめぐる介入のあり方については、総務省の有識者会議「プラットフォームサービスに関する研究会」が20年2月に出した最終報告書で、
「プラットフォーム事業者による情報の削除等の対応など、個別のコンテンツの内容判断に関わるものについては、表現の自由の確保などの観点から、政府の介入は極めて慎重であるべき」
だと提言している。松本剛明総務相は、この報告書から「考え方を変えているわけではない」とする一方で、政府としての「こちらの情報が正しい」といった情報発信は必要だとの立場を示した。「一般論」として、
「偽・誤情報への対応策としては、プラットフォーム事業者などが規約によって、これを削除することによって対応するというのも1つの方法。適正なプラットフォーム事業者の社会的責任を持った運営はお願いをしていきたい」
などとプラットフォームのあり方に触れた上で、
「それぞれの立場でしかるべき情報発信をさせていただいて『こちらの情報が正しい』『こちらの情報を理解いただきたい』ということで、情報発信によって偽・誤情報に対応するということも考えられると思う。そういう意味での情報発信については、それぞれの立場で適切に行っていただきたい」
と述べた。
この答弁を受けて、柳ヶ瀬氏は、情報発信のあり方を判断する第三者機関の設置が必要だとした。
「政府がどういう情報発信をして、それが本当に正しいのかどうなのか。こういったことを見定める第三者機関、この設置こそ、まさに必要なのではないか」
(J-CASTニュース編集委員 兼 副編集長 工藤博司)