「どうして?」目をかけていた期待の若手部下が退職 後悔する新米上司...そのやり方、熱意は正しかったのか

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   上司の言葉がけひとつで、モチベーションが高まった経験はありませんか?

   実際のエピソードや感動的なエピソードを取り上げ、人材育成支援FeelWorks代表の前川孝雄さんが「上司力」を発揮するヒントを解説していきます。

   今回は、有望な若手部下を厳しく育てようと奮起した新米上司のエピソードです。

  • 経験を積んで、上司も成長していく
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希望した営業職に配属された、やる気満々の新任部下

   Aさんは、専門商社で30代前半の若さで営業課長に抜擢された血気盛んな新米上司。

   10数人のチームメンバーを束ねるポジションに着任。ちょうどその年に第二新卒で入社してきたY君に目をかけ、しっかり鍛えて一人前の仕事人に育て上げようと胸に定めました。

   Y君は希望していた営業に配属され、やる気満々の元気で人懐っこい若者。

   伸びしろも十分期待できそうです。上司のAさんにとっては初めて採用段階から関わった部下でもあり、思い入れもひとしおでした。

   どんな仕事にも前向きなY君。しかし、Aさんから見ると、仕事ぶり一つひとつが気になって仕方ありません。

   「当たって砕けろ」で、飛び込み営業にも果敢に取り組みますが、成果には結びつきません。新たな企画も積極的に提案しようとし、チーム会議で事前にプレゼンさせるも、上滑りで表面的な内容ばかり。

「提案営業は、自分の言いたいことや見せたいことを華々しくアピールする場じゃない。何よりも、顧客の課題感やニーズをヒアリングすること。そのうえで商品やサービスがお客様にとってどう役に立つのか、分かりやすく伝えることが大事だ」

   そう言ってきかせても、進歩が見られません。

熱心に指導するも効果は上がらず

   AさんはY君の仕事のやり方について、その都度細かく注意し、時には厳しく叱るなど、「営業の何たるか」を口酸っぱく教え込もうと躍起になりました。

   デスクサイドだけでは足りず、会議室に呼び出し、1対1でこんこんと話すことも度々。今どき飲みにケーションははばかられるものの、出張時には夜は飲み屋でじっくり語ることも。

   時には説教のしすぎで、Aさん自身がふらふらになるほどでした。

   それでも、Y君はAさんが願うスピードで育ってはくれません。成果をなかなか上げられないY君に対する上層部の評価も、厳しくなっていきます。

   Aさんは自分の声掛けだけでは足りないと、先輩にあたる他のチームメンバーにもY君への助言を頼みましたが、やはり効果は上がりません。

「君にとって、営業はまだ慣れない仕事。分からないことや自信のないことは、上司や先輩によく訊いて習うように」「先輩に同行させてもらい、営業ノウハウを学んできたら」

   そうアドバイスしても、周囲に相談する様子はありません。

   Y君がじっとパソコンとにらめっこをしているので訳を聞くと、SNSやグーグル検索で「営業の裏技」を調べているとのこと。

   「おいおい、そんなことじゃ、うちの業界やお客様にフィットしたスキルは身に付かないぞ!」と、さらに叱責することに...。

やがて退職してしまったY君

   そうこうするうちに、Aさんが気にしていたY君の社内評価はますますシビアになっていきました。

   新人とはいえ第二新卒のため、早期の戦力化が求められます。3か月や半年の節目に営業成績や今後の可能性が問われますが、その点でも振るいません。

「これは、もっと本腰を入れて鍛えないと...一人前にするには、まだ程遠いな...」

   Aさんは焦る気持ちを抑えながら、さらに根気よく、Y君と向き合う時間をとり続けました。

   しかし、入社から1年半後に、Y君は自己都合で退職してしまいました。

   理由は「次のキャリアに向けて」ということでしたが、上司や会社から認められないことへの失望があったことは否めません。

   Aさんはひどく落ち込みました。自分の育成ミスに違いないと思いました。ただ、何とか一人前に育てたいという自分の気持ちが、Y君に伝わらなかったことが悔しくて仕方ありませんでした。

   志望した会社の営業職に就き、やる気と希望に胸を膨らませていた彼を、短期間で落胆させ、自信を喪失させてしまったと、Aさんは自分を責めました。すまない気持ちでいっぱいでした。

   ですが、しばらくして、Aさんは気づきました。

   営業成果を求める上層部からの重圧の中、管理職として気持ちばかりが焦り、Y君の気持ちや得手不得手をしっかり受け止められず、彼ならではの成長の道筋を作ってやれなかったのだ、と。

   単に自分のやり方を押し付けたに過ぎなかったとも。しかし、もう遅いのです。

   唯一の救いは、Y君がその後の転職先で、それなりに頑張っていると風の便りに聞いたことでした。

   このエピソードは5月15日公開の<「胸が詰まって何も言えなかった」早期離職した部下と10年ぶり再会 新米上司時代の苦い経験こそ「成長の糧」>に続きます。

(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)



【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。
近著に、『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)、『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!』(FeelWorks、2024年4月)など。

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