2024年3月、JR京葉線のダイヤ改正で「通勤快速」が廃止、列車本数などの平準化が行われ、利用者や沿線住民から大きな反発があった。その反発が、ようやく可視化されることになった。
千葉市やちばぎん総研は、千葉市のウェブサイトでアンケート調査を行い、4月22日時点で1万2086人の回答があったと神谷俊一市長は記者会見で発表した。
おそらく、千葉市のサイトで誰でも回答できるようなアンケートフォームを設置し、それに千葉市民などが任意で答える形式のものだったのだろう。だとすると、サンプリングなど、社会調査法などの基本的なところが守られていないアンケートであるため、回答が千葉市民の声を代表するかわからない。おそらく、京葉線のダイヤ改正に反発する人の声が、アンケート回答として押し寄せ、このように大きな回答者数になったと考えられる。回答数は、実際の不便になった人がどれだけいるかではなく、「怒りの熱量」が可視化されたものだと言える。法律を作る際の「パブリックコメント」の収集に近い性質のものだろう。
このアンケートは、4月30日締切となっている。現在のところ、途中経過しか発表されていない。ただ、怒りの声はどんなものだったのだろうか?
異議申し立てをする人は多い
回答の約半数が千葉市民、3割が外房線・内房線沿線利用者である。
回答者のうち8割が「悪い影響がある」と答え、6割が「乗る電車を早める・遅らせる」と回答した。京葉線の利用をやめた人は3割。「通勤・退勤時間帯の快速の増便」を希望する人が7割、「通勤快速の復活」を希望する人が6割いる。
千葉市は京葉線のダイヤ改正を問題視し、アンケートを設置。異議申し立ての声を集約し、可視化したということにはなる。しかし、実際の京葉線利用者の反発は大きいものがあると見ていいだろう。
なにせ、アンケート回答者の中で京葉線の利用をやめた人は3割いるのだ。総武線やアクアラインバスに切り替えたかはわからないが、ほかの交通手段に移行したことは確かだろう。8割もの人が悪い影響を受けたとしている。朝時間帯のダイヤが不便になり、乗る列車を変えなければならなかった人も多い。
JR東日本は、列車種別ごとの利用者状況の違いなどを理由にしている。人手不足の問題もあるのだろう。だが利用者を無視してはいないだろうか。
朝ラッシュ時でも列車種別は複数設けられる
京葉線では、緩急接続ができる駅が多くあり、かつては朝ラッシュ時にも複数の列車種別を走らせて利用者の便を図っていた。しかし、平準化などを理由に本数を削減し、かつ各駅停車のみの駅の利便性を向上させるとした。実際には大して増えていない。
私鉄では京葉線よりも列車密度が高い路線でも、朝ラッシュ時に優等列車と各駅停車を混在させ、遠距離客と近距離客の分離などに力を入れている。かつての京葉線も同様のことをやってきたのだ。
ダイヤを「退化」させたことに対して、反発があるのは当然だろう。
乗務員などの人手が足りない、という問題があるのかもしれない。ならばそれを正直に言えばいい。
今回のアンケートは、統計学的・社会調査法的には正確さを満たさない調査であると考えられる。ただ、調査対象者を適切にランダムサンプリングすることが難しい案件で、これ以上のことはできないのが現実だったのではないだろうか。それは、JR東日本千葉支社が京葉線の現状を改善しない材料になるかもしれない。
「声なき声」という言葉がある。1960年5月に岸信介首相は、60年安保闘争の中で反対運動に参加しない多くの人を指してこのように言った。
JR東日本千葉支社は、京葉線ダイヤ改正に対しての異議申し立てをしない多くの人を「声なき声」と考え、このまま改善しないということもありうるのだ。
社会を変えるには、「声を上げる」ことが大事だ。JR東日本千葉支社は、ダイヤ改正で困ったことになった人や地域の声に耳を傾けるべきである。いっぽう、地域の人たちも声を上げ続けてほしい。「声なき声」とは言わせないだけの存在感を示すことで、変えられることもある。(小林拓矢)
筆者プロフィール
こばやし・たくや/1979年山梨県甲府市生まれ。鉄道などを中心にフリーライターとして執筆活動を行っている。著書『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。