プロボクシングのスーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋、31)が2024年5月6日、東京ドームで元世界2階級制覇ルイス・ネリ(メキシコ、29)に6回TKO勝ちし、それぞれの王座の防衛に成功した。
試合は初回に井上がまさかのダウンで波乱の幕開け。初回をしのいだ井上は2回に左フックでダウンを奪い返すと、5回にダウンを追加。6回に右ストレートをネリの顔面に叩き込んで、この日3度目のダウンを奪い試合を決めた。
「いつもだったら一気呵成に攻めているが...」
世界中が注目したビッグマッチでの逆転勝利。プロ初のダウンを喫しながらも、その後ネリを圧倒し力でねじ伏せた。
なぜ井上は初回のダウンを跳ね返して逆転できたのか。J-CASTニュースは、多くの世界王者を育てたTMKジムの金平桂一郎会長(58)に分析してもらった。
金平会長は初回の井上のダウンシーンをネリの視線から解説した。
「おそらくネリ選手自身がダウンを奪って、相当びっくりしたと思います。いつもだったら一気呵成に攻めている。ところがそれができませんでした。千載一遇のチャンス。本人も陣営もこれに期待してリングに上がり、実際にチャンスが訪れた。ただ、そこでネリ選手はびっくりしてしまったと思います」
ネリは初回に左フックで井上からダウンを奪うも、その後の攻撃で倒しきれなかった。これまでダウンを奪った後は回転の速い連打で猛攻するのが必勝パターンだったが、この日は影を潜め攻めきれなかった。ネリはいきなり訪れたビッグチャンスを生かしきれなかった。
金平会長は初回の攻防を次のように独自に分析した。
「初回のダウンシーンで一番落ち着いていたのが井上選手かも」
「井上選手の倒れ方を見ても、その後の動きを見てもダメージがあったと思います。井上選手はプロで初めてのダウンだったが、非常に冷静に対処しました。だからネリ選手は、自分のパンチが効いているか、効いていないのかの見極めがつかなかったと思います。井上選手がダウンしてびっくりしたのと同時に『本当に効いているのだろうか』と、ちょっと迷ったと思います。強打のネリ選手は相手のダウンシーンには慣れているはずですが、井上選手に効いたという雰囲気が見られなかったので、なかなか判断がつかなかったと思います」
金平会長は初回に井上がダウンを喫したことに関連して、2つの新たな発見があったとした。
ひとつめはダウン後の井上のリアクションだ。
「初回のダウンシーンで一番落ち着いていたのが井上選手かもしれません。セコンドや観客、視聴者を含めて井上選手だけが慌てていなかった。ネリ選手は倒してから畳みかけるという練習をしてきたと思います。それが勝利のパターンだから。ただ、実際にダウンを奪った時に井上選手のダメージの判断ができなかった。井上選手はダウンをしてまずいと思ったはずだが、すごく冷静でした。これは練習をしてできるものではない。隠れた才能。おそらく天性のもので天才たる所以でしょう。ひとつの発見でした」
そして金平会長はこう続けた。
「『井上選手にもつけ込むところがある』と判断した関係者もいたでしょう。井上選手が打たれもろいのではなく、当然ですが、パンチを打たれれば効くし倒れるということです。これまでの試合でダウンシーンがなかっただけに、やはり井上選手も『人間なんだ』と」
「ネリ選手を評価するべきだと思います」
初回のダウンを除けばほぼ一方的な展開となり、ファンの期待通り最後はネリを粉砕したモンスター。結果、ヒール役に徹し、劇的な井上の逆転勝利を演出したネリだったが、金平会長はネリの「勇気」を高く評価した。
「ネリ選手はダウンを奪った後じり貧になってしまった。そもそもスピードが違いすぎました。ただ思うのは、その後なかなかパンチを当てることができなかったが、勇気をもって追いかけていった。その点、ネリ選手を評価するべきだと思います。過去に井上選手と対戦した選手は攻めようとしたが粉砕されたり、そもそも腰が引けて行けなかったり。そういう展開が多かった。ネリ選手は過去にトラブルがあり、いろいろ言われていたが、今回は勇気を持って戦ったと思います」
スポーツ紙の報道によると、ネリは試合後ダメージが深く病院に直行したため、予定されていた会見は行われなかったという。