猛クレームで担当を外され、すっかり自信を失った部下 上司が伝えた「周囲までよく見渡して」の真意

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   上司の言葉がけひとつで、モチベーションが高まった経験はありませんか?

   実際のエピソードや感動的なエピソードを取り上げ、人材育成支援FeelWorks代表の前川孝雄さんが「上司力」を発揮するヒントを解説していきます。

   今回は、ブライダルプランナーとして活躍する、30代のOさんの話です。

  • ブライダルプランナーの忘れられない「挫折経験」とは
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  • 「上司力」を発揮するヒントとは
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もうこの仕事は続けられないかも...

   <「担当者すぐに替えて!」 新婦に寄り添い続けたブライダルプランナー...家族から猛クレーム電話のなぜ>の続きです。

   翌日は、A課長の不在日で、とりあえず先輩スタッフのY主任から事の顛末を聴いたOさん。

   ひどくショックを受けると同時に、どうにも納得できない気持ちも湧いてきました。

「最初に、彼女の希望にできるだけ沿いたいと言ったのは、彼のほうなのに」
「彼女と意見が違うなら、まず2人できちんと相談してからこちらに話すのが筋では...」
「ましてや、いきなり彼の母親がクレームをつけてきて、担当者替えまで要求するなんて!」
「それに、A課長も、なぜ私の言い分も聴かずに、すぐ交代なの...」
「でも、男性が急に一人でやってきたとはいえ、彼の話を丁寧に聴かなかったことは確か。自分も彼女側に寄り過ぎて、少し意固地になっていたかもしれない...」

   ようやく一人前に仕事ができるようになってきた中での、思わぬ大きな挫折。思い入れの強かった仕事だけに、悲しさと悔しさで、思わず涙が溢れてきました。

「この仕事、自分に合っていないのかな...もうこれ以上続けられないかもしれない...」

   Oさんは、そう考え始めていました。

私にも話したいことが...でも、涙で語れないまま

   翌日、Oさんが出社すると、早速、上司のA課長からミーテイングルームに呼び出されました。

   自分にも言い分はあるものの、お客様をひどく怒らせてしまったのは事実。どんな叱責を受けることになるかとOさんは身構えました。

   A課長は、話を切り出しました。

Aさん「先日のことは、Y主任から聞いていると思う。残念だけど担当は交代してもらうよ。後任はYさんに頼んだので、できるだけ早く引継ぎをしてほしい」
Oさん「はい、わかりました...。でも、私からも話したいことがあります。今回のお客様の件、私は決して新郎様を軽視したわけではないんです。そうではなくて...」

   そこまで話し始めたOさんは、思わず涙が込み上げてきて、続きを語れなくなってしまいました。

   しばらくその様子を見て少し落ち着いた頃を見計らい、上司のAさんが話しを継ぎました。

「お客様との仕事の経過は、Yさんから聞いているよ。これまで彼女に任せきりだった彼が、急なプラン変更を申し出てきたということだね。Oさんらしく、彼女の気持ちを丁寧に聴き、親身になって寄り添ってきたんだよね」
「ただ、お客様が担当者の交代を希望し、特に感情的になっている場合は切り替えも必要。思い入れある仕事だけに気持ちが落ち込むだろうけど、タイミングや相性もあるから、あまり気にしすぎないことだ」

「お客様の幸せ第一」は大切 だからこそ、周囲をよく見渡す

Aさん「でも、今回のことで1つ学んでほしい。結婚は、新郎新婦だけでなく2つの家同士が絡んでくる。結婚式は、家族と家族が一緒になることを喜び合う晴れの場。それぞれの考え方が違うことで、うまく進まなくなることもある。両家の意見がうまく折り合わない時は、プロである私たちが上手に仲介やアドバイスに入る必要もあるんだよ。今回も、細かなところで彼や彼の親御さんと彼女の思惑がずれてしまったのかもしれないね。これは、相談に来る若い2人にも、未知の事柄だしね」
Oさん「そうですね...。私は、いろいろアイディアを提案して、彼女が喜んでくれるのが嬉しくて、気づかないうちに自分の理想に引っ張ってしまったのかもしれません。まだ若い二人ですから、節目ごとに彼や親御さんとの意見合わせも促してあげるべきでした。式を盛り上げることばかりに夢中で、突っ走ってました」
Aさん「うんうん。大事なことに気づけたね。目の前の2人だけでなく、その後ろにいるご両親たちも一緒に満足していただくことが私たちの仕事なんだ。だから、2人に見えていない部分も気を付けてあげないと。連絡してきたお母さん曰く、郷里が交通の便が悪い遠方で、決めた式の日時にご親族が集まるのも難しいらしい。そんな相談も、できるとよかったね」
Oさん「本当に、いろいろすみません。私、自信をなくしてしまって、この仕事に向いていないのかもって...」
Aさん「Oさんなら大丈夫だよ。だって、ひどく落ち込んで担当を外した上司の私に食ってかかるかと思いきや、もう自分の至らなかったところに気づけたじゃないか。失敗は誰にでもある。大事なことは、二度と同じ失敗を繰り返さないこと。Oさんのモットーの『お客様の幸せ第一』は、この仕事の素養そのものだよ。今回の件で、お客様の周囲までよく見渡して差し上げるのが大事だと学べたね。ウェディングの仕事は奥が深いぞ。まだまだ学ぶことも多い。一緒に頑張ろう」
Oさん「ありがとうございます! もっと勉強して、頑張ってみます」

   このエピソードは5月6日公開の<経験豊富な「ベテラン部下」が一目置く上司の条件は 殻に閉じこもらず...トレンドを学び続けていますか?>に続きます。

(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)



【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。
近著に、『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)、『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!』(FeelWorks、2024年4月)など。

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