現在「推し」がいる人は約6割で、10代女性になると9割超――。LINEヤフーが13歳以上の男女2万8182人を対象に実施した調査結果だ。さまざまな企業で「推し」を活用したマーケティングも生まれている。
だが、「推しのカジュアル化」が負の側面を生んだと、オタク文化に詳しいニッセイ基礎研究所研究員の廣瀨涼氏は指摘する。推しの市場が広がったことで、誰もが「推して当たり前」という風潮が生まれた。SNSの普及も相まって他人の推し活が可視化されるようになった結果、推し活に競争意識が生まれ、無理した資金工面が行われることもあり、パパ活や闇バイトなどの社会問題に繋がっているという。詳しい話を聞いた。
「推し」ターゲットの市場拡大
推し色、推し香水、推しチョコ。近年、「推し」を冠したコンテンツが増えている。推し色とは、応援している人物やキャラクターをイメージする色のこと。アイドルグループなどのメンバーカラー、髪や服で色が決まる。こうした「推し」をターゲットにした市場が広がっている。
廣瀬氏は、「推し」がカジュアル化したことで、さまざまなコミュニティーで行われるファンの活動が総称できるようになったと話す。その結果、推しグッズ、推し色、推しに「貢ぐ」ために必要となるクレジットカードなど、大規模なマーケットが生まれた。
そもそも「推し」とはどんな定義なのか。廣瀬氏によれば、自分が他人に勧めたいほど応援している好きな対象を指す。また、精神的充足感に繋がる対象であるとも。推すことで心を満たしてくれる存在ということだ。
最近では、推しの応援活動を意味する「推し活」のレベルや熱量の差に関係なく、「好きならば好き」と言える風潮が生まれた。推しの意味が「自分の好きなもの」と、アイドルやアニメキャラだけでなく、ラーメンやカフェなど幅広い対象を指すようにも変わった。
他人と競い合うためではない
こうした広がりは、「推し」という言葉のカジュアル化と関係する。では、そのメリットは何か。廣瀬氏は「あまりないと思います」。好きな人物やキャラを応援する活動は昔からあるからだ。強いて言えば、先述した推しマーケットの広がりだ。
一方、「推し」のカジュアル化にはデメリットがある。廣瀬氏はこう説明する。
「推すことが当然視されるような世の中になった。『自分が好きならばそれでいい』と思って推し活が始まったはずが、どうしても他人と比較してしまう。以前に比べて競い合いが露骨になってくるわけです」
推しを応援する活動が精神的充足に繋がるならば、他人を顧みる必要はない。だが、推しに依存的な人は、他の人よりも貢献したり、認知されたりすることが精神的に満たされるようになる。握手会や投げ銭にお金を使うため、稼ぐ必要がある。大金が必要になれば、パパ活や闇バイトといった社会問題に繋がる恐れがあるのだ。
推し活で精神的充足を満たす人に、それをやめさせるのは難しく、その権利もないと廣瀬氏。だが、初心に立ち返ることの大切さを訴える。他人と競い合うためではなく、好きだから推すのではないか。また、推せる範囲で推すことが大事とも話した。