2024年4月29日の外国為替市場で、円相場が1ドル=160円を付けた後に急騰した。1ドル=154円台にまで数時間で6円近く円高に振れる荒い展開だった。
市場では政府・日銀による円買いドル売りの「為替介入」があったとの見方が浮上、「証拠探し」が進んでいる。果たして「介入」はあったのか。
J‐CASTニュースBiz編集部では、まさに4月末の3連休中の「覆面介入」を予測していた第一生命経済研究所の熊野英生さんに改めて話を聞いた。
神田真人財務官の「意味深」の微笑み
対ドル円相場が乱高下した4月29日夕、報道陣の取材に応じた財務省の神田真人財務官は省内でこう語った。
「投機によるこの激しい、異常とも言える変動が国民経済にもたらす悪影響には看過しがたいものがある。引き続き必要に応じて、適切な対応をして参りたい」
これまで以上に強い発言内容で市場をけん制したが、為替介入の有無については、「今はノーコメントだ」としながら、「謎の微笑」を浮かべ、こう述べた。
「情報公開に努めている。5月末にしっかり発表をさせていただく」
これは、財務省が毎月末に、おおむね直近1か月分の為替介入の有無を公表していることを指しているとみられる。
ただ、止まらない円安の背景にあるのは、日本と米国の金利差の大きさだ。
現在、市場が注目するのは4月30日~5月1日(現地時間)に米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)が開く金融政策会合(FOMC、米連邦公開市場委員会)だ。
インフレが収まらないことを理由に、パウエル議長が会見で利下げの先送りを示唆すれば、いちだんと円安が加速、1ドル=160円に迫る可能性もある。その時、再び政府・日銀は為替介入に踏み切るのだろうか。
5月3日からの4連休に、また「覆面介入」?
J‐CASTニュースBiz編集部は、2024年4月26日付の「円安加速1ドル156円突破! 政府日銀は連休中に『覆面介入』?待ち受ける『ミセス・ワタナベ』との攻防/第一生命経済研究所・熊野英生さん解説」の記事で、4月末からの3連休中に「覆面介入」を予想していた第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生さんに話を聞いた。
――今回のドル円レートの急変動、「覆面介入」と見ていいのでしょうか。また、1ドル=160円が政府・日銀の「防衛最終ライン」だったのでしょうか。
熊野英生さん 神田財務官が「断固たる措置をとる」と言っておりましたし、「24時間業務」に就いていましたから、介入は間違いないだろうと見られます。ただ、1ドル=160円が今後も「防衛最終ライン」になるかどうかはわかりません。
日本時間の5月2日にFRBのFOMC(金融政策決定会合)があり、パウエル議長が会見でどういう発言をするかどうかわかりません。パウエル氏はずっとインフレ率2%を目標にしてきましたが、3%で高止まりをしています。
会見でパウエル氏が「インフレが収まらないので、利下げを先送りにする」と示唆すれば、かなり円安が進むでしょう。しかし、何も明言しないでグレーゾーンの発言をするかもしれず、その後の為替の変動は不透明です。神田財務官としては、その後のドル円レートの動きを様子見して、そこで「防衛最終ライン」も決まるのではないでしょうか。
――5月2日以降、日本ではまた3日から6日まで4連休が始まりますね。
熊野英生さん 東京の外国為替市場が閉まっているので、また、「覆面介入」に動く可能性はあります。今回の「覆面介入」はそういう牽制球の意味もあったと思います。
いずれにしろ、5月2日のパウエル氏の会見次第です。しかし、そう何度も「為替介入」はできません。
そう何度も「為替介入」ができない理由
――どういうことでしょうか。
熊野英生さん 米国のイエレン財務長官に4月25日、ドル円相場に関して「為替市場への介入はまれな出来事であるべきだ」とクギを刺されています。
もともと米国には、他国の為替介入に強い警戒感がある。米財務省は原則、年に2回、他国が為替操作を行っているかどうかの報告書を議会に提出し、各国が為替に介入する状況を監視しています。
米国は昨年(2023年)6月、為替操作をしていないかを緊密に注視する「監視リスト」(為替操作国)から初めて日本を除外しました。ただ、それは米国が日本を信頼しているからで、その分、安易な介入は米国からの批判を招きかねず、従来以上に正当化する理由が必要になります。
また、そもそもIMF(国際通貨基金)は基本的に、市場が深刻な機能不全に陥る、金融安定のリスクが高まる、予想物価が制御不能になる、といった特別な場合以外の為替介入は正当化されないとしています。
追加利上げだけは避けたい、政府日銀の本音
――滅多に為替介入ができないとなると、政府日銀は今後、円安の進展にどう対応していくのでしょうか。
熊野英生さん 剣道や柔道などの武道でいう「後の先(ごのせん)を取る」方法ですね。先手を取らせておいて、後から攻撃をするという意味です。つまり、米国の金融政策の変化をにらみながら、カウンターや返し技を繰り出していくしかありません。
米国の金融政策は今後、変わっていく可能性があります。11月の大統領選でバイデン氏になるか、トランプ氏になるか。どちらも景気を回復して大統領にのぞみたい。景気をてこ入れして刺激するには、現在のような金融引締め策ではお互いに困ります。
――日銀が利上げに踏み切り、日米の金利差を縮小する政策はいかがでしょうか。
熊野英生さん 追加利上げに追い込まれる事態だけは避けたいというのが、日銀と政府の本音と思われます。回復途中の景気が悪化します。しかし、日本側が利上げをしないと、円安がどんどん進むことも困ります。
日本経済の舵取りが、本当に難しい段階に差し掛かっています。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)