AIビジネスで日本が米中に勝てない理由 中国人連続起業家を阻んだ「前例と規制」

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スタートアップがAIをやるのは難しい

   経営努力だけでは超えるのが難しいハードルもあった。

   神居秒算が参入した不動産業界では中国人は魅力的な客だったが、安全性を重視する医療業界では、中国への警戒を隠さない人もいた。

「日本の課題を解決したいと思って頑張っているのだが、中国の会社なんですか、データを処理するサーバーはどこにあるの、日本の法律を分かっているの?そういった質問を受けることもあった」

   データのサーバーは日本に置き、上海のチームはユーザー体験の改善に関わる開発に専念している。処方箋データはシステム開発側の人間が見ることはないと、そのたびに説明した。

   個人情報保護法が壁になり、AIが学習するデータが集めにくい現状については「日本がAI分野で米国や中国に遅れを取っている大きな要因の一つ」と考えている。

「米国にはオリジナルの技術とトップ人材が集まるシリコンバレーがある。中国は新しいものが好きでエラーに対する許容度が大きいので、キャッチアップが早い。日本は前例がない取り組みにおいて、一歩踏み出すことがとても大変」

   新技術を活用した業務効率化は、人口減の日本が成長を続けるための重要な鍵でもある。薬師丸賢太を軌道に乗せた何さんは、錠剤の自動カウント技術など次のビジネスプランも思い描いている。そこでもやはり、薬事法などの規制が壁になっているという。

   何さんは「悪用を防ぎ、秩序を守る規制が必要なのは理解できるが、新技術を社会に素早く展開できるよう、例外をつくってほしい。悪用したら罰せればいい。今の日本ではスタートアップがAIをやるのはなかなか厳しい」と訴えた。(浦上早苗)


【筆者プロフィール】

浦上早苗:経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員。福岡市出身。新聞記者、中国に国費博士留学、中国での大学教員を経て現職。近著に「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。

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