近年、投資の世界で「AI推奨銘柄」「AI予測アプリ」が盛んになっているが、実際にAIに株価を予測させると衝撃の結果が――。
第一生命経済研究所の研究員が、「楽観シナリオ」と「悲観シナリオ」に基づいて生成AIに日経平均株価と、ドル円レートを予測させたリポートが話題になっている。
生成AIを正しく投資に活用するにはどうしたらよいのか。研究員に聞いた。
AIに「物価高に怒る国民の力」を読み込ませると...
<日経平均とドル円レートの「AI予測」が衝撃! 年末2万8000円の暴落&1ドル230円の超円安...どうなるニッポン?(1)/第一生命経済研究所・柏村祐さん>の続きです。
――ところで、2つ目のリポートのドル円レート予測ですが、私は「悲観シナリオ」で1ドル=230円という猛烈な円安の結果が出たことに衝撃を受けました。これは、現実に起こり得る話でしょうか。
大変な物価高になり、怒った国民が黙っていないでしょう。また、そういう事態になる前に政治が対応を迫られ、少なくとも政府・日銀が為替介入はすると思いますが、いかがでしょうか。
柏村祐さん たしかに、現実には起こらないと思います。おっしゃるとおり、ヒューマンパワーを無視してAIが予測しています。今回、ドル円レートのでは「悲観シナリオ」「楽観シナリオ」でどういった予測ができるかを示すことに重点を置きました。
しかし、物価高に対する国民の怒り、政府・日銀による為替介入の有無、為替レートでの国際協調の有無......といった視座は非常に重要な指摘です。AIにそういった要素を読み込ませれば、グラフがジグザグに上下する別の予測になったことでしょう。
物価高に関しては連日テレビなどでも報道していますから、国民目線を取り込めば、もっと読者に寄り添うリポートになったと思います。
突発的出来事の「予兆」をキャッチできる?
――リポートでは、日経平均のAI予測の限界として「あくまで過去のデータに基づくため、未来の突発的な出来事を予測できない」とあります。たしかに、過去に株価を下落させたリーマンショック、新型コロナ、ロシアのウクライナ侵略などはみな、突発的な出来事です。
しかし、ほかにも「AIの予測には、いくつか限界がある」と指摘していますが、それは何ですか。
柏村祐さん 過去のデータに関することです。
AIがいくら過去のデータを徹底的に分析しても、100%確実に予測できないということです。AI以前でもさまざまなテクニカルチャート分析がなされてきましたが、100%確実に株価や為替レートを予測したためしはありません。
もし、それができれば世の中、みんな大金持ちになります。江戸時代からそれがビジネスの夢でしたが、誰も成功していません。AIが過去データの分析を極めたとしても、テクニカルチャート分析よりは精度が上がりますが、完ぺきにはなりません。
しかし、多少は突発的出来事の予測はできるかもしれません。
――どういうことでしょうか。
柏村祐さん 誰よりも早く、突発的出来事の予兆をキャッチアップできる可能性があります。
AIの膨大な情報源の中にはSNSも入っています。今回の中東紛争で、イランがイスラエルに無人機やミサイルの報復攻撃を行なった時、多くのSNSで夜空を飛ぶ無人機などの映像がアップされました。
現在、SNSのほうが、報道機関より情報が早い場合が多いです。もし、リーマンショックのようなことが再び起こった場合、SNS上で金融機関の社員が書いたリポートがアップされれば、それを巨大な金融不祥事発生のシグナルとしてAIが事前にキャッチすることも可能になります。
大きなリスクの予兆を知ることで、優位に立つことができます。もっとも、SNSにはフェイクニュースがつきものなので、注意が肝要です。
AIは、使う人の人生を豊かにしてくれる
――なるほど。最後に今回のリポートで特に強調しておきたいことがありますか。
柏村祐さん AIは万能ではないということです。投資に利用する際は、あくまで参考にする程度にとどめておきましょう。なにごともそうですが、楽をしてお金を稼げる方法はこの世の中にありません。
投資の世界だけでなく、AIは使う人の人生を豊かにしてくれます。AIの普及によってホワイトカラーの二次元の仕事は、確実に全部AIができるようになるでしょう。
たとえば、あなたは今、私への取材を録音していますが、AIに「3000文字に要約して記事にしてください」と指示すれば、すぐに文字起こしをして原稿にします。
その際、私の話の「〇〇の部分を強調して取りあげ、原稿にメリハリをつけてくれ」と指示することも可能です。原稿執筆時間が大幅に少なくなり、別の有意義なことに使えますよ。
――それは素晴らしい! 私もAIを使いこなせるよう勉強しなくては(笑)。
柏村祐さん 電気が発明された今、ローソクを使うことはありません。電気を使いましょう。ガスが発明された今、薪を使うことはありません。ガスを使いましょう。
人手不足が深刻な現在、これからはシニアと外国人、AIに頼るほかありません。AIを使い倒しましょう。AIと協力しながら自分の能力を高めていきましょう。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
柏村 祐(かしわむら・たすく)
第一生命経済研究所主席研究員 テクノロジーリサーチャー
1994年中央大学商学部会計学科卒。第一生命保険入社。2018年4月から現職。2021年多摩大学大学院経営情報学研究科修士課程修了(MBA)、国立大学法人九州大学総合理工学研究院客員教授兼任。
専門分野はAI(人工知能)、テクノロジー、DX。これらをベースに社会の変化や未来について、執筆・講演・勉強会も行っている。著書に『デジタル国家ウクライナはロシアに勝利するか?』(2022年7月・日経BP)など。