近年、投資の世界で「AI推奨銘柄」「AI予測アプリ」が盛んになっているが、実際にAIに株価を予測させると衝撃の結果が――。
第一生命経済研究所の研究員が、「楽観シナリオ」と「悲観シナリオ」に基づいて生成AIに日経平均株価と、ドル円レートを予測させたリポートが話題になっている。
生成AIを正しく投資に活用するにはどうしたらよいのか。研究員に聞いた。
日経平均4万6000円と、2万8000円の予測ギャップ
このリポートは、第一生命経済研究所主席研究員/テクノロジーリサーチャーの柏村祐さんが発表した「日経平均予測AIの衝撃~AIを活用して2024年6月、9月、12月末の株価を予測してみた~」(2024年4月12日付)と、「AIによるドル円レート予測の衝撃~AIは2024年ドル円相場をどのように予測するのか?~」(同4月18日付)の2つだ。
日経平均株価の近年の上昇トレンドは、投資家の間でも意見が分かれている。企業の業績改善を背景に、さらなる上昇を期待する人がいる一方、上昇スピードに対する警戒感を示す人も少なくない。
そこで柏村さんは、生成AIを用いた日経平均の予測を試みた。その手順はこうだ。
まず、AIに2019年4月から2024年4月までの日経平均の過去5年分のデータを読み込ませ、全体的な傾向を分析させる。そのうえで、AIに2024年に起こる「楽観シナリオ」と「悲観シナリオ」を作成させ、それに基づく株価予測をさせる。
◆楽観シナリオ
AIが作った「楽観シナリオ」はこうだ。
(1)地政学的動向では、国際社会が多極化し、地域ごとの安定が向上。イスラエルとハマスの緊張が緩和し、中東情勢が安定。米中が対話を重ね、世界経済の安定に寄与。
(2)経済動向では、世界経済成長率が3.1%に上方修正され、ソフトランディングが実現。主要国のインフレが収まり、購買力が回復。技術革新が進展し、経済成長を牽引。
(3)政治動向では、国連を通じた国際強調が強化され、グローバルな課題への対応が加速。世界各国の民主主義が強化され、市民の参加が実現。環境保護や社会的公正を重視した政策が各国で推進され、持続可能な開発が進む。
そして、AI自身が作った楽観シナリオに基づき2024年6月末、9月末、12月末の株価の予測を指示すると、6月末4万3000円、9月末4万4500円、12月末4万6000円という予測を算出した。
◆悲観シナリオ
同様に、AIに「悲観シナリオ」を作成させた。その内容はこうだ。
(1)地政学的動向では、イスラエルとハマスの衝突がさらに激化し、紛争が地域全体に拡大。米中関係はさらに悪化し、台湾問題を中心に米中の軍事的衝突のリスクが高まる。
(2)経済動向では、不透明性が高まる。中東での紛争拡大が原油価格急騰を引き起こし、インフレ率上昇と経済成長鈍化を招く。中国の不動産業低迷が世界経済の成長を抑制する。
(3)政治動向では、米大統領選で分断が一層深まる。トランプ氏の返り咲きが実現すると、国際秩序が不安定に。欧州では極右勢力が台頭、保護主義が強まり、EU内の結束が弱まる。
この「悲観シナリオ」に基づき、2024年6月末、9月末、12月末の価格を予測させると、6月末3万2000円、2024年9月末3万円、12月末2万8000円という予測を算出した。
ドル円レート予測も、同じく「1996年以降の過去のレートの分析」と「楽観シナリオ」「悲観シナリオ」に基づくレート予測の2つの工程で行なわれた。2024年4月29日現在、1ドル=155円前後だが(29日には一時、1ドル160円台をつけた)、どんな結果が出たか――。
「楽観シナリオ」と「悲観シナリオ」の内容は日経平均とほぼ同じだ。
「楽観シナリオ」に基づく、2024年6月末、9月末、12月末のドル円レートは、6月末130円、2024年9月末125円、2024年12月末120円という予測だ。現在より一気に25~35円近く円高に動く予測だ。
「悲観シナリオ」では、6月末185円、9月末210円、12月末230円という結果に。こちらも一気に55~75円近く円安に動く予測だ。
こんなに円安が進んだら、どれだけの物価高になるか。日本経済は大丈夫だろうか。
「AI推奨銘柄」や「AI予測アプリ」は、鵜呑みにするな
J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめた第一生命経済研究所の柏村祐さんに話を聞いた。
――株価予測とドル円レートの予測、ともに「楽観シナリオ」と「悲観シナリオ」の結果に大きな違いが出たことが驚きです。AIに「楽観シナリオ」と「悲観シナリオ」を作成させるには、地政学、経済動向、政治動向などにどんなデータを打ち込む必要があるのですか。
柏村祐さん 何もありません。私が今回のリポートでやったことはたった2つです。過去のデータを読み込ませたうえで、「楽観シナリオと悲観シナリオを作成しなさない」「それぞれのシナリオに基づいて、2024年6月末、9月末、12月末の予測を算出しなさい」と指示しただけです。
――それだけで、これだけの予測ができてしまうのですか。今回、このリポートを出した狙いは何ですか。
柏村祐さん 金融市場では現在、AIを用いた株価予測手法が投資家の間で大きな関心を集めています。
AIには大量のデータの「予測モデル」が埋め込まれているため、「楽観シナリオと悲観シナリオを作成しなさない」と指示するだけで、分析と予測が可能になり、リスク管理の精度がこれまでの図表やグラフでやっていたテクニカルチャート分析より高くなります。
皆さんにAIによる予測に興味をもっていただくために、「楽観シナリオ」と「悲観シナリオ」を初めて自分で作ってみました。これは私のオリジナリティーです。「中立シナリオ」もつくってみましたが、あまり面白い結果ではないので、割愛しました(笑)。
――最近、証券会社では「AI推奨銘柄」を大々的に宣伝しています。また、多くの「AI株価予測アプリ」が出回っています。そういうところでも、「楽観シナリオ」と「悲観シナリオ」はあるのでしょうか。また、そういう「AI推奨銘柄」や「AI株価予測アプリ」は信用できるものでしょうか。
柏村祐さん 証券会社やアプリなどが、AIでどういう予測をしているのかは、おそらく企業秘密なのでわかりません。
利用する場合は、実績があるものかどうか、しっかり調べて確認する必要があります。また、たとえ実績があっても絶対に鵜呑みにしないで、最終的には自己責任で判断してください。
だって、お金って自分や家族の健康の次に大事なものでしょう? 自分の人生と同じです。AIや投資のプロが勧めても、最後に決めるのは自分自身です。
AIに何度も質問して、自分のシナリオを作ろう
――となると、AIを使って自分で株価やドル円レートを予測することが大切になりますが、大事な注意点は何でしょうか。
柏村祐さん まず、優れた生成AIを選ぶことです。ChatGPTが非常にポピュラーですが、もっと優秀な生成AIがたくさん登場しています。AIの世界は「日進月歩」では「秒進分歩」のスピードで進化しています。
ちなみに私は、生成AI「Claude3」(クロードスリー)や、AI検索エンジン「perplexity Ai」(パープレキシティ・エーアイ)を使っています。自分で使ってみて手触りがなじむものを選んでください。また、無料版ではなく有料版をぜひ使ってほしいです。精度が全然違いますから。
次に自分が何を知りたいのか、自分自身のシナリオを作ることが大切です。たとえば、今回私はAIにフンワリと「楽観シナリオと悲観シナリオを作成しなさい」と指示しただけです。
しかし、もっと詳しいシナリオをつくるなら、「米大統領選でバイデン氏とトランプ氏のどちらが勝つと、楽観シナリオと悲観シナリオに入るのか」とか、「米中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げはいつ行われるのか」といった具体的な質問をどんどん投げかけると、より内容が濃い回答が返ってきます。
――つまり、AIに突っ込んで何度も聞くことが大事になるわけですね。
柏村祐さん そのとおりです。「質問力」が問われます。「質問力」があるということは「構想力」があるということです。受け身の姿勢ではダメです。質問力を身につけるには勉強が欠かせません。
そして、楽観シナリオと悲観シナリオといった大雑把なシナリオだけでなく、シナリオA、B、C、Dとさまざまなシナリオを作って、将来を予測してみましょう。春は楽観、夏は悲観...と色々と組み合わせてみるのもアイデアです。
自分が投資した会社の株価を予測する方法
――柏村さんがリポートで作ったのはマクロ経済の予測ですが、投資家個人としては、具体的に自分が買っているA社の株価がどうなるかを知りたいところです。A社の株価を予測したい場合はどうしたらよいですか。
柏村祐さん マクロ経済と手法は全く同じです。A社の株価の過去データを読み込ませたうえで、A社を取り巻く環境の「悲観シナリオ」「楽観シナリオ」など、さまざまなシナリオを考えて予測します。
仮にA社が半導体関連の会社なら、半導体業界の動向をAIに聞いてみるのもいいでしょう。グローバル経済の動き、業界の動き、そしてA社個社の動向と多角的にAIに聞いていくのです。すると、今年の秋くらいには上がってくるか、下がってくるか、おおよその予測ができるのではないでしょうか。
――生成AIは「非常に話し上手な、知ったかぶりの、ちょっと小生意気な優等生」と言われるそうですね。
柏村祐さん そのとおりです。だから、AIから自分が投資しているA社の情報を聞き出すには、先ほども言いましたが、AIにどんどん質問するための経済の勉強が非常に大事になります。
<日経平均とドル円レートの「AI予測」が衝撃! 年末2万8000円の暴落&1ドル230円の超円安...どうなるニッポン?(2)/第一生命経済研究所・柏村祐さん>に続きます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
柏村 祐(かしわむら・たすく)
第一生命経済研究所主席研究員 テクノロジーリサーチャー
1994年中央大学商学部会計学科卒。第一生命保険入社。2018年4月から現職。2021年多摩大学大学院経営情報学研究科修士課程修了(MBA)、国立大学法人九州大学総合理工学研究院客員教授兼任。
専門分野はAI(人工知能)、テクノロジー、DX。これらをベースに社会の変化や未来について、執筆・講演・勉強会も行っている。著書に『デジタル国家ウクライナはロシアに勝利するか?』(2022年7月・日経BP)など。