日本球界が近年、「投高打低」の傾向にある。
今シーズンはここまでセ・パ両リーグ各球団の対戦カードが一巡し、投打の成績をみると本塁打や打率など打者の成績が全体的に低く、投手の成績が目立っている。これは今シーズンに限ったことではなく、ここ数年の傾向だ。
なぜこのような「投高打低」の流れが続くのか。J-CASTニュースは、巨人、ヤクルト、西武、楽天でコーチを務めた経験を持つオイシックス新潟アルビレックスBC監督の橋上秀樹氏(58)に分析してもらった。
23年シーズンの3割打者は両リーグで5人
セ・パ両リーグでコーチを経験した橋上氏は
「今シーズンに限らずここ近年、だいぶ投高打低の傾向にあります。パ・リーグは昨年、3割バッターが2人しかいませんでしたし、日本球界が投高打低の流れにある」
とし、「投高打低」の要因を独自分析した。
「要因の1つに、ピッチャーの質の向上が挙げられる。新しいトレーニングを含めた身体能力的な向上が図られていることと、傾斜、硬さを含めたマウンド。スピードが出やすいマウンドが多くなっている。マウンドの傾斜によって体重移動がスムーズになり、それによってスピードが増す。そして近年増えてきたドーム球場はピッチャーが恩恵を受けやすい。常に同じようなコンディションで投げることができるのでプラスが大きいと思います」
セ・リーグは2024年4月27日時点で、首位の阪神と2位・巨人のチーム防御率がそれぞれ2点台前半(阪神2.10、巨人2.01)で、広島が2.56で続く。打者で3割以上の数字を残しているのが4人でドミンゴ・サンタナ外野手(ヤクルト、31)が.321で首位に立っている。
一方のパ・リーグは、楽天とロッテを除く4球団のチーム防御率が2点台。打撃はセ・リーグ同様に3割打者は4人だ。柳田悠岐外野手(ソフトバンク、35)が打率(.342)、OPS(出塁率と長打率を足した数字).951でいずれもリーグ首位に立っている。
23年シーズンを振り返ると、3割打者は両リーグを通じてわずか5人だった。内訳はセ・リーグが宮﨑敏郎内野手(DeNA、35)、西川龍馬外野手(当時広島・現オリックス、29)、サンタナ(ヤクルト)の3人で、パ・リーグが頓宮裕真捕手(オリックス、27)、近藤(ソフトバンク)の2人だった。
「あと何年かはバッターの数値は右肩下がりに...」
投手の平均球速が上がったことに加えて、投手が使用する球種も「投高打低」に関係しているとした。これが、要因の2つ目だ。
「ここ最近、持ち球の中で縦の変化球を使うピッチャーが非常に多くなった。フォークボール、チェンジアップ、速めのカーブなど。今までもそういう球種を投げるピッチャーはいたが、このような球種を使うピッチャーが増えたのと、その球種を使う割合が増えた。たとえば、ツーボールからフォークボールでカウントを取ったり。巨人の戸郷(翔征)投手はカウントを取るフォークボールと、空振りを取るフォークボールを投げ分けている。バッターは横の変化に比べて縦の変化は対応しづらい」
さらにこう続けた。
「かつて縦の変化球はどちらかというとウイニングショットに使う割合が大きく、見逃せばボールになるような球が多かった。今はストライクを取ったりするので、よりやっかいになっている。3割バッターが少なくなっているのは、平均的なスピードが上がっているのと縦変化というバッターにとっては非常に対応しづらい球の割合が増えていることが関係していると思います。高い能力を持ったピッチャーが増えている証拠でもあります」
今後も「投高打低」の傾向は続くのだろうか。
橋上氏は「ピッチャーのコントロールがよくなり、バッターはフォアボールを取りづらくなっている」と指摘。そのうえで、
「そうなると出塁率、長打率も下がるので必然的にOPSも下がってくる。バッターの数値の中で、上がり目が考えられるものがなかなかない。よほど画期的なトレーニング法などが見つからない限り、あと何年かはバッターの数値は右肩下がりになっていくと思います」
との見解を示した。