東京商工会議所は2024年4月22日、「2024年度新入社員意識調査」の集計結果を公表した。就職先の会社でいつまで働きたいかという質問に「定年まで」と答えた人は21.1%にとどまった。
2014年度調査では「定年まで」と答えた人は35.1%で、この10年間で14.0ポイント減っている。「チャンスがあれば転職」と答えた人は11.9%から26.4%に増えており、調査元は、新入社員の「長期勤続志向」が低下した現れと見ている。
「優秀な人材を採りたければ、給与を上げるしかない」
就職先の会社を決める際に重視したことは「処遇面(初任給、賃金、賞与、手当など)」が56.0%でトップ。次いで「社風、職場の雰囲気」が54.3%、「福利厚生」が45.4%と続いている。
この結果を見た大手メーカーの人事担当者Aさんは「当社で把握している新入社員の考えと同じですし、しばらくこの傾向はますます進みそう」と答えた。ポイントは「お金に妥協せず、転職も辞さないところ」だという。
「優秀な人材を採りたければ、給与を上げ、魅力的なキャリアパスを提示するしかない、という当たり前の話です。そのためには初任給だけでなく、給与制度全体を変える必要があります」
Aさんの会社ではこの春から、いわゆる「ジョブ型」の給与体系に全面改訂した。これにより、以前あった年功的な要素が大幅に減り、ジョブ、つまり職務によって大きく差がつくようになったという。
「ジョブと報酬の体系はあらかじめ示されているので、高い給与が欲しければ、どんなジョブに就かなければいけないか、どんなスキルを磨くべきかが分かるようになっています。主体的に動かないと、自分の給与も上がっていかないしくみです」
異動も、会社による定期的なジョブローテーションより、社員による希望を可能な限り優先して受け入れる形で行われるという。
「会社が社員に対して『自分のキャリアは自分で決めてください』と言っているんだから、希望を叶えるのは当たり前ですよね。その代わり、自主的に動かずに会社任せにしている人は昇格も昇給もしない時代になります」
年功序列的な給与テーブルでは「経験者採用で相手にされない」
Aさんの会社が給与制度の抜本的な見直しを行った背景には、「優秀な人材が経験者採用できなくなった」ことがある。
これまでは新卒採用中心だったので、採りたい人から断られることはほぼなかった。しかし経験者採用では、外資系コンサルティング会社などと天秤に掛けられ、「やっぱり給与が全然違うので」と、ほとんど辞退されてしまう。
「年功序列的な給与テーブルを大事に抱えていると、たとえばデジタル人材など労働市場で奪い合いになっている専門人材に内定を出しても、まったく相手にされません。最初、経営陣は『なぜうちが負けるのか?』と不思議がっていましたが、基本的な考え方から改めないとダメだと気づいたのです」
なお、「高く売れるジョブ」とは、経営戦略の重点事業や重点課題に関わりの深い仕事だ。
「事業ポートフォリオの変革」のために、新規事業の開発に携わるか、既存事業であれば生産性の飛躍的向上を実現しなければならない。これまでの仕事を、これまでと同じやり方でコツコツとこなしていても評価されない。
Aさんは、完全な売り手市場となった新卒採用は、優秀な経験者採用と同じ感覚で行う必要があるだろうと指摘する。
「まずは『お前を入れてやる』ではなく『あなたに選んでいただく』に考えを改めること。そして、社員にとって『入ったら人生を丸抱えしてくれる会社』ではなく、『転職を念頭に置きながら魅力的なキャリアを積める会社』であろうとすること。言い換えると、『自分を高い売り物にしてくれる会社』ということ。給与と転職にこだわる新入社員の考え方は正しいと思います」