海外のモノが高額で買えなくなる
為替レートで経済が決まるのなら、日本経済は断トツで良くならないとおかしいという話になる。しかし円安になったからといって経済が良くなるわけではない。確かに円の価値が下がって賃金も製品のコストも安くなれば、海外にモノを売りやすくなる。このところインバウンドが活況を呈し、対外投資からのもうけが伸びているのはそのためだ。
但し、これは安売りによって売り上げを伸ばしているという話に過ぎない。戦略的にバーゲンセールを短期間行っているのであれば良いかもしれないが、今後何年にも渡って円安が続くとすると、それは国が貧しくなることに他ならない。そうなったらエネルギーも食糧も電子製品も......海外のモノは全てが高くなってしまって、我々の手には届かなくなる。
世界の中での円の地位を復活させる必要がある。そのためには日本経済の実力を向上させるしかない。輸出を増やすのも有効だが、輸出はGDP(国内総生産)の2割未満しかないので効果は限定的だ。結局は国内経済をどうするかの話となる。少子高齢化、労働生産性の低さ、IT化の遅れ、地方経済の衰退、補助金のばらまき(負担)等々で疲弊している日本経済を、どう立て直していけるのか。
日本では、自動車や一部ITなどのグローバル企業は世界のトップクラスの能力を誇っている。しかしサービス業を中心とした産業は非効率で、競争力が非常に弱い。GDPの8割をサービス業が占めているので、ここを改善できるかどうかがカギになる。日本のサービス業の効率が悪い主な理由には「安い」のと「サービス過剰」(ていねいだとも言えるが)という二つ。サービス提供者が顧客におもねりすぎず、正当な対価を得られる環境が築けるかどうか。これが経済活性化への重要ポイントとなる。
世界で日本人ほど評判の良い国民もいない。真面目で責任感が強く、良く働き、頭が良く、数字に強く、協調性が高く、手先が器用。こんな優秀な国民が頑張った結果が、円安と経済の停滞では悲しい。頑張れば道は開けるはずだ。(小田切尚登)
筆者プロフィール
おだぎり・なおと 幅広い分野で執筆活動やレクチャー等を行っている。バンク・オブ・アメリカ等大手外資系投資銀行数社で勤務した後独立。クラシック音楽サロン「シンフォニー」代表。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。『欧米沈没』(マイナビ新書)。