「若年老害」。職場の高齢者のイメージが強い「老害」という言葉が、若い世代に広がっているという。
そんななか、人事向けサービスを展開する調査会社のアスマーク(東京都渋谷区)が2024年4月8日に発表したリポート「若年老害という言葉から考える、指導者育成と社内教育のポイント」が参考になりそうだ。
あなたは「若年老害」になっていないか。「若年老害」にどう対応したらよいか。担当者に聞いた。
「仕事の武勇伝を語る」「酒席の振る舞い方にうるさい」
「若年老害」という言葉は、20代後半から40代くらいで、早くも組織で「老害」と化している人のことを指すという。もともとは、労働社会学者で働き方評論家の千葉商科大学の常見陽平(つねみ・ようへい)准教授が提唱して広まったとされる。
常見氏は、『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)や、『できる人という幻想 4つの脅迫観念を乗り越える』(NHK出版新書)などの著作があり、自らも「若き老害・常見陽平」と名乗って多くのメディアに登場、働く若年層が抱えるさまざまな問題に対してズバズバ提言してきた。
アスマークによると、もともと「老害」という言葉は、頭が固く、傍若無人の振る舞いで周囲に迷惑をかける高齢者を表わしていた。しかし、40代以下の若い世代に対しても、同じような行動をとる人がいることから「若年老害」という言葉が使われるようになったという。
「若年老害」の具体例としてこんな言動があげられるという。
(1)自分の仕事の武勇伝を語る。
(2)酒の席での振る舞い方について説教する(先輩の酒が空になったら、言われる前に注げ、など)。
(3)「〇〇君の気持ちもわかる」という前置きをして、自分の意見を押しつける。
さらに特徴的な行動として――。
(4)コロナ禍前の「昔話」を、自慢話のように頻繁に持ち出す。
こうした「若年老害」が注目されてきた背景には、コロナ禍を経て、働き方に大きな変化が現れてきたことがあげられる。終身雇用や年功序列が衰退して、実力によって抜擢される若手が増えてきたからだ。
ところが、変化に対する柔軟な思考や自由な発想が求められるのに、旧態依然とした「若手よりベテランが偉い」「部下より上司が偉い」といった固定観念の持ち主が少なくない。
一方、指導される側も気に入らない上司や先輩に対してレッテル貼りに使うケースがあり、「若年老害」という言葉が広がっているのだ。
「コロナ」前後でこれだけ違う...若い世代の働き方
J‐CASTニュースBiz編集部は、アスマークの担当者に話を聞いた。
――そもそもの疑問ですが、高齢者による「本物の老害」と「若年老害」はどこが同じで、どこが違うのでしょうか。
担当者 具体例は、この程度の内容でも「若年老害」と言われかねませんよ、という意味で、あえて少しソフトな例を挙げています。「○○君の気持ちもわかる」と前置きしたところで、最終的には意見を押し付けているなら老害扱いされますよという...。
「本物の老害」と「若年老害」との差については、2つ間に違いはありません。「老害」と呼ばれるような振る舞いをする人の中で、年齢層が若い人は特に区別して「若年老害」と呼ばれているというイメージです。
――以前、アスマークで調査した「クラッシャー上司」を取材しました(J-CAST 会社ウォッチ「部下を精神的につぶしながら、どんどん出世!『クラッシャー上司』になっていませんか? チェックリストの特徴にあてはまったら、要注意!(2023年9月12日)」)
「部下を踏み台に出世する、仕事は非常にできるが、極めて冷たい上司」ですが、その若年版ということは考えられないでしょうか。つまり、「クラッシャー上司」になるタイプが早く管理職になったということです。
担当者 「クラッシャー上司」も「若年老害」も、自分の考えが正しいと固執しがちという点では似ているかと思います。
「クラッシャー上司」のほうは、ただ武勇伝を語って疎まれるだけではなく、結果を求めて時には部下を潰してしまうくらい厳しく叱責する点でより注意が必要です。
――なるほど。「クラッシャー上司」のほうが怖いですね。「若年老害」の具体例として「コロナ禍前」の出来事を「昔話」として持ち出す点が、何となく可愛げが感じられます(笑)。
私は70代の団塊世代なので、バブル崩壊以前の高度成長期の「昔話」、たとえばテレビCMの「オー、モーレツ!」に代表される猛烈サラリーマンの話題を持ち出す点に通じていると感じました。
「コロナ禍前」と「コロナ禍後」では、若い世代にとってそれほど大きな意味を持っているのでしょうか。
担当者 たしかに似ていますね。
一般的にコロナ前後では、オフラインイベント(飲み会や接待、土日のゴルフなど)が多い/少ないが違いになってきます。コロナ前は飲み会や社内イベントの幹事は若手の仕事だったり、土日の懇親会への参加も断れなかったり...というケースが少なくなかったかと思います。
しかし、コロナ禍や、それ以後に入社した若手はこれらの経験をしたことがほとんどありません。下手をしたら、学生時代に飲み会などを全くしていないケースも考えられます。
長時間労働が当たり前だった時代の先輩たちと、ワークライフバランスが叫ばれる今の現役世代との間に価値観の違いがあるように、飲み会が頻繁だったコロナ前の世代と、オフラインイベントの経験がないコロナ後の世代では価値観に違いがあるようです。
「老害だ」「最近の若者は」と、お互いに偏見はないか?
――ところで、組織内に「若年老害」を生まないようにするには、社内教育で一番大事なポイントはなんでしょうか。
担当者 会社としてできることは、上司先輩層に対し、時代は変わるので自分の(昔の)考えが必ずしも最適ではないことや、自分の考えが凝り固まっているのではないかということを、研修などを通じて教え気付かせていくことが、大切かと思います。
また、社風自体が時代に乗り遅れたままでは、社員も「古いやり方が正しい」という考えからアップデートができず、若手から老害扱いされやすくなってしまうのではと思います。
――部下の立場から、「若年老害」にはどう対応すべきですか。私のような「年上部下」も、可愛げがあるとは言っていられなくなります(笑)。
担当者 酔ったときに武勇伝を聞かされる程度の可愛いものであれば、自分が大人になって聞き流すというのも1つの手かと思います。
ただ、自分の過去の成功体験から「成功するにはこのやり方しかない」と思い込んでいる場合が多いので、新しいやり方で成果が出している実例を挙げ、考え方のアップデートを促してはいかがでしょうか。
また、部下の側も、「若年老害」とみなしている人に偏見をもって接していないかと振り返ってみてほしいです。昔ながらのやり方が必ずしも悪い、効果がないというわけではありません。上司も部下もお互いに偏見を捨ててフラットに話せる関係になれれば理想ですね。
――たしかに、「老害」と決めつけられるのは、たとえ高齢者でも若手でも嫌なものですよね。
担当者 お互いに無意識な偏見がある場合があります。「老害だ」とか「最近の若い者は」とか言いたくなったときには、自分は偏見で話していないかな?と一度振り返ってみることが、いい人間関係をつくるには大切なのではないかと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)