帝国データバンクの調べによると、2023年度の倒産件数は8881件と9年ぶりの高水準となった。
2024年度は本業の利益で借入金ができない状態に陥る「ゾンビ企業」の淘汰が進み、倒産件数は1万件突破も視野に増加が見込まれるという。
帝国データバンクは「今こそ『倒産=すべて悪』という固定観念から脱し、新陳代謝を促すツールやバロメーターの側面もあると、認識を改めるべき時かもしれない」と、中小企業の大量倒産を許容するような言葉で分析を締めている。
「別に社長が社員を搾取しているわけじゃない」
これを読んだ中小メーカーの社長Aさんは、複雑な心境を明かす。大手消費財メーカーのOEM生産を請け負うAさんの会社も「ゾンビ企業」呼ばわりをされることがあるが、その状況を打破することは簡単ではないのだという。
「私たちは安くて良質な製品を作ることで、社会の役に立とうとしています。発注元の大手企業だって、私たちの力がなければ製品を確保できないはず。なのに、みんな安く買い叩くことしか考えてない。それで『ゾンビ企業は潰れろ』はないですよね」
社員に十分な給料も払えない会社など潰れてしまえ、とも言われるが「別に社長が社員を搾取しているわけじゃない。下請けの中小企業が賃上げをすることは、そう簡単じゃないことを理解しているのでしょうか」と嘆く。
社員の賃金の原資は、売上や利益だ。下請けメーカーが売上や利益を増やすためには、発注元からもらう代金を増やす必要がある。主な方法は「単価を引き上げてもらう」ことだが、発注元との単価交渉は簡単ではない。
かつてAさんは発注会社に「社員が集まらないので、仕事がやりきれなくなるおそれがあります。社員の給与を5%ほど上げたいので、単価をアップしてもらえないでしょうか?」と要望を出したことがある。しかし、購買調達の担当者の返事はつれないものだったという。
「当然のように『え、うちの賃上げは今年3%なんだけど、おたくにそれを超える賃上げは許されないですよね?』と言われたんです。発注元を超える賃上げ率なんて生意気だとでもいうのでしょうか。原材料費の高騰も反映できてないのに、そんな言い方はないだろうとガッカリしました」
新しい機械を入れた途端「発注は終わり」と言われることも
Aさんによれば、まずは発注元の会社が5%以上の賃上げをしてから、下請けもようやく5%程度の単価アップの交渉に入れるという。しかし、それもすぐには実現されず、先送りされてしまうこともある。
めでたく単価が上がり、実際に単価が上がって売上や利益が増えると、ようやく賃金を上げることができる。しかし、それで安心はできない。
「生産性を上げるために、お金を借りて新しい機械を入れたりすると、突然、『おたくは単価が高いから自社で内製することにした。発注は終わり』と言われることもあります。結局、それが怖くて安い単価のままで無理な仕事を続ける下請けもあるんです」
最近、「原料価格の上昇分の価格転嫁が思うように進まず」「設備投資の借り入れが大きな負担となり」といった理由で倒産する会社を見かけるが、その背景には発注元と下請けとのいびつな関係があると、Aさんは指摘する。