静岡県に本社を置くいなば食品で、今春の一般職採用の新入社員19人のうち少なくとも17人が入社を辞退していたことを週刊文春が報じた。
辞退の理由は、労働条件が事前の提示を下回っていたり、労働条件通知書の交付が遅れたりしたためなどだ。社長をはじめ取締役に稲葉姓が並ぶ「同族経営」であったこと、社長夫人が恐れられていることなども知られた。
そうしたなか、Xでは「非上場の同族経営の企業はやばい」などと指摘する投稿も。本当にそのような傾向はあるのだろうか。
「優秀でもなく勤勉でもない人が社長になれるのは...」
非上場の同族経営での勤務経験のあるAさん(50代・男性)に話を聞いてみた。Aさんは新卒で非上場の同族経営のメーカーに入社。その後、やはり同じく非上場の同族経営のIT企業に転職し、現在は非同族の上場企業で働いている。
「まず、どんなに頑張っても社長にはなれない。その一方で、自分よりさほど優秀でもなく勤勉でもない人があらかじめ社長になれることが決まっている。こういう同族企業の状況に、精神衛生上耐えられない人がいるのでは」
いくら「実力主義」を標榜していても、上級管理職や取締役の指定席を一族が占めている会社では「言ってることとやってることが全然違う」ということになる。
「一族が絶対的な権限を持っていて、機嫌を損ねると容赦なく左遷させられ、いつも異常な緊張状態にある会社は不健全だと思います。ただ、同族経営でも言いたいことが言える風通しのいい会社もありますし、出世志向のない人には気にならないかもしれません」
また、Aさんは「同族経営は非上場企業だけのものではない」と付け加える。事実、時価総額日本一のトヨタ自動車の代表取締役会長は、豊田章男氏である。
「誰もが知っている大手上場企業でも、社長が代々世襲の会社はあって、高い求心力を誇る会社もあるけれど、社員がうんざりしている会社もあると聞きますよ。オーナー社長が過半数の株を持っていたら、非上場企業と似たような問題は起こり得ます」