経済系シンクタンクの今夏ボーナス予想がほぼ出そろった。
その中で、日本総研が2024年4月17日に発表した「2024年夏季賞与の見通し―好調な企業収益を背景に、3年連続の高い伸びに」は、民間企業で1人当たり平均約41万1000円、伸び率前年比3.5%増と、ほかの予想に比べ、支給額・伸び率とも最も高い数字を出している。
これって素直に喜んでいい額なのか、それとも......。調査研究員に聞いた。
3つのシンクタンクの中で、もっとも高い額だが
日本総研のリポートによると、2024年夏のボーナスは好調な企業収益を背景に、3年連続の高い伸びになる見込みだ。主なポイントは次のとおりだ。
(1)民間企業の支給総額は前年比3.9%増となる見通し。支給対象者の増加幅は縮小傾向にあるものの、1人当たり支給額が3.5%増の約41万1000円と、夏のボーナスとしては2018年以来の高い伸びに【図表1】。
(2)この高い伸びは、企業の賃上げ余力が高まっていることが背景。価格転嫁の進展などを背景に、企業収益は高水準を維持しており、物価高への配慮や人材確保などを目的に、多くの企業がボーナスの増額に踏み切る見込み。
(3)ボーナス算定のベースとなる所定内給与(基本給)の引き上げもボーナス増額に作用。今年の春闘賃上げ率(連合の第3回回答集計)は、5.24%増と33年ぶりの高い伸び。ボーナスの額は基本給に支給月数を乗じて算出されるケースが多いため、基本給の引き上げが賞与を押し上げる見込み。
(4)一方、企業が生産した付加価値全体のうち、どれだけが労働者に還元されているかを示す「労働分配率」は、企業規模にかかわらず低下傾向にある。特に大企業の落ち込みが顕著だ【図表2】。
(5)国家公務員の1人当たり平均額は3.0%増の68万8000円を予想。昨年の人事院勧告に基づく賞与の支給月数の引き上げ(0.05月分)と月例給の増額(0.96%)が押し上げに作用。
なお、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MUFG)が4月9日に発表した「20204年夏のボーナス見通し」によると、民間企業の1人当たり支給額は2.9%増の約40万8770円だ。また、第一生命経済研究所が4月12日に発表した「2024年・夏のボーナス予測」によると、民間企業の1人当たり支給額は3.3%増の約41万円だ。日本総研の予測が、支給額と伸び率ともに一番高いことになる。
労働分配率をみると、正直、もっと出してもいいが...
夏のボーナス見通し、ほかのシンクタンクより高い予想になったのは、なぜなのか。J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめた日本総研調査部研究員の北辻宗幹(きたつじ・かずき)さんに話を聞いた。
――民間企業で1人当たり支給額が3.5%増の約41万1000円という予想の数字ですが、ズバリ、喜んでいい数字なのか、それとももっと上がっていいのに、とガッカリする数字なのか。どちらですが。
北辻宗幹さん 今年の春闘賃上げ率が5.24%増(連合の第3回回答集計)と、想定よりかなり高い数字です。このくらいのボーナス支給額は出てもいいものだと思いますから、喜んでいいでしょう。
ただ、労働分配率をみると、大企業、中小企業ともに下がっています。このグラフを見ると、正直、もっと出してもいいのかな、という気持ちはあります。特に大企業では、直近の2023年10~12月期では約45%に下がっています。
足元の賃上げ率は3.6%増と、やはり春闘で30年ぶりの「歴史的賃上げ」と非常に高かったですから。
――労働分配率は、ざっくりいうと企業がどれくらい人件費にお金を回しているかを示す比率ですよね。それがなぜ、この時期に特に大企業でドーンと下がったのでしょうか。
北辻宗幹さん 急激な物価上昇分を価格転嫁に回したり、海外進出をしている企業が多いですから、円安の影響も大きく受けたりしたと思われます。そのため、期待されたほどには賃上げは弱かったのでしょう。
人材確保のため、ボーナスの大盤振る舞いも必要に?
――三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MUFJ)への取材では、こう説明していました。「昨年春闘が歴史的な賃上げ率だったにもかかわらず、冬のボーナスが悪すぎた。前年比0.7%増と、想定外の小幅な伸びにとどまった。支給総額も1.8%増と低い水準だった。これは、企業が月給は上げたがボーナスは低く押さえ、総人件費を抑制したからだ」
つまり、企業は甘くはないということですね。そのため、今回は1人当たり支給額を2.9%増と控えめの予想を出したそうです。こうした分析についてはどう思いますか。
北辻宗幹さん MUFJさんの分析とは違って、わが社では、人手不足は非常に深刻で、人材確保のためには月給を上げるだけでは不十分な段階にきていると見ています。ボーナスにまで波及させなければならないほど、賃上げ圧力が強いと分析しております。
もう1つ、MUFJさんとの分析の相違点は、おそらくボーナスの支給労働者数と思われます。
――なるほど。
北辻宗幹さん 足元で雇用は増えており、ボーナスを支給される労働者も前年より少し増えると見込んでいます。しかし、増加分の大半がコロナから回復した飲食店や、インバウンド需要が見込める宿泊サービス業になるでしょう。
こうした業界の労働者は、もちろん正社員もいますが、非正規雇用が多いのです。つまり、ボーナスの総支給額の増加に比べ、支給される労働者の数はそう増えないため、1人当たりの額の増加率が相対的に高くなると考えています。
スラエルのイラン攻撃で、実質賃銀プラスが遠のく?
――ところで現在、23か月連続実質賃銀(2024年2月の毎月勤労統計)のマイナスが続いていますが、仮に3.5%増という物価上昇分より高いボーナスが支給されると、実質賃銀がプラスに転じる日もやってきますか。
北辻宗幹さん わが社では、春闘の成果が今年夏には反映されてきますから、夏場にはプラスに転じるとみています。
しかし、本日(2024年4月19日)も、イスラエルがイランを攻撃したという報道が流れ、日経平均株価が一時1300円も下落するなど、先行きが不透明です。原油高も心配です。
プラスになるのは年末になるか、来年になるか、予断を許さない情勢です。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)