何歳まで働きたい?「いつまでも」が20%! 世界で日本だけダントツに多いのは勤勉な国民性?老後の不安から?/リクルートの宇佐川邦子さん

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   あなたは何歳まで働きたい? 「生涯現役」という答えもあれば、「悠々自適」「晴耕雨読」という答えもあるだろう。

   そんななか、日本人は「働けるうちはいつまでも」働きたいと考える人が20%以上もいることがリクルートの国際比較の研究でわかった。3~5%台の欧米諸国の数倍に達し、ずば抜けて多い。

   これは、「働く意欲が高い勤勉な国民性」と喜んでいいのか、それとも「老後に不安を抱える人が多い」と残念な結果なのか。研究者に聞くと――。

  • 若い人と一緒に働くと楽しい
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  • 宇佐川邦子さん(本人提供)
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「いつまでも働きたい」日本20%、フランス2%未満

   このリポートは、リクルートが2024年3月26日に発表した「何歳まで仕事をしたいですか?」という調査報告。

   対象の国は、日本、韓国、カナダ、オーストラリア、アメリカ、スウェーデン、ドイツ、イギリス、インド、中国、フランスの11か国。2023年10月に、直近2年以内に転職を経験した20~59歳のフルタイム勤務者合計9568人に聞いた【図表】。

(図表)何歳まで仕事をしたいか? リクルート・Indeedの「グローバル転職実態調査 2023」
(図表)何歳まで仕事をしたいか? リクルート・Indeedの「グローバル転職実態調査 2023」

   グラフを見ると、「働けるうちはいつまでも」と回答した人の割合は、日本がダントツに高く20.1%、次いで韓国(15.3%)、カナダ5.6%と続いた。全体の7.4%と比べても約3倍で、日本は、年齢に関わらず働けるうちは働きたいと考えている人が圧倒的に多い結果となった。

   逆に、「働けるうちはいつまでも」と回答した人が最も少ないのはフランス(1.7%)。次いで、中国(3.0%)、インド(3.3%)、イギリス(3.7%)の順となった。

   具体的な年齢をイメージできている人で、「51~65歳くらいまで」仕事をしたいと考えている人の割合は、フランスが最も高く75.3%。次いで、中国72.4%、ドイツ65.2%と続き、アメリカや西欧諸国などでも半数を超えていた。それに対して、日本は最も低く43.9%となった。

   「51~65歳」は、ちょうどライフスタイルの変化や定年など、セカンドキャリアを考え始める年齢で、各国と日本の間で大きな差が見られる結果となった。これはいったい、どういうことなのだろうか。

シニアで働く人同士の「相乗効果」がある

   J‐CASTニュースBiz編集部は、リクルートのジョブズリサーチセンター・センター長の宇佐川邦子さんに話を聞いた。

――日本は「働けるうちはいつまでも」働きたい割合が2割以上と、主要11か国の中でずば抜けて高いです。欧米や中国でも3~5%台。みんな老後を悠々自適に暮らしたいという人が多いようです。

しかし、たとえば朝日新聞が行なった世論調査(「年金制度に不安」現役世代72% 朝日新聞世論調査)では、現役世代の72%が「公的年金制度」に不信感を抱いており、31%が「公的年金に加入したくない」とまで答えています。

「いつまでも働きたい」という人が多いのは「働き続ける意欲が高い」というポジティブな考えによるのか、「いつまでも働かないと老後が困る」というネガティブな考えによるのか。ズバリ、どちらだと思いますか。

宇佐川邦子さん 私は、日本はすばらしい国なのではないかと思っています。私は、高齢者の雇用促進の仕事をしており、多くのシニアの方にインタビューして「何歳くらいまで働きたいのか」と聞いていますが、みんな自分が思っている以上に「まだまだやれる」と自信を持つ人が多いのです。

たとえば、60歳の人に「何歳まで働きたいですか」と聞くと、「70代の半ばくらいかな」と答えます。ところが、70歳の人に聞くと、「80代の半ばくらいかな」と、5~10歳ずつ増えていくのです。

これは合理的に説明できます。65歳で働いている人の周りには2、3歳年上の人が働いている。その人の周りには70歳の人が働いている。そういう、周囲で頑張っている年上の人を見ていると、自分でもまだまだやれるかもと、自信が湧いてくるのです。

10年前ならダメだろうと思っていた年に自分がなった時、さらに先まで働いている自分が見えてくるのです。

――なるほど、シニアで働く人同士の相乗効果ですね。私も70代の団塊世代で、働いている仲間が多いから気持ちはわかります。ところで、多くのシニアは何を目的に働きたいと思っているのでしょうか。

宇佐川邦子さん 当社の「シニア層の就業・意識調査2023」(複数回答可)では、「生計の維持のため」が一番多く4割ですが、それと同じ4割が2番目の「健康のため」です。その次に多いのが「お小遣いをもらって楽しみたい」と「社会とのつながりを持ちたい」です。

また、「社会に貢献したい」「働くのが好きだから」「視野を広げたい」という理由も上位にきています。「老後の不安」のため働かざるをえないというより、「老後を楽しむ」ために働き続けたいという人が多いのです。

実際、インタビューで働いているシニアの方々のお話を聞くと、「アルバイト先で高校生と孫の話ができて楽しい」とか、「子どもの手が離れて、自分が好きなことをやってお小遣いが稼げてうれしい」とか、元気で顔色のいい人が多いです。

シニアになると、若い時より仕事が多様化して面白くなるようです。

シニアになると、仕事のバリエーションが増える

――どういうことですか。

宇佐川邦子さん 若い世代の仕事との関わり方は、ある意味、パターン化しています。

たとえば、新卒の人は仕事が未経験なので、まず仕事を覚えなくてはならない。次に、結婚するかどうか等の選択があり、結婚すれば子育てと仕事の両立が課題となります。その状態が50代くらいまでは大きく変わらないことが多いです。

しかし、60歳を超えたシニアの生き方は、さまざまなパターンに満ちています。たとえば、2人の高校生の子どもがいて、仕事を懸命にしなくてはならない人。一方、子どもが独立して、自分の好きな仕事に打ち込める人。逆に介護する親を抱えている人。また、自分自身の病気と闘いながら働く人。

それに、身近な人と死別した悲しい経験を持つ人や、長い仕事生活の中で挫折した経験を持つ人もいるでしょう。つまり、若い世代と違って、人生経験と仕事経験の積み重ねが広くて深いですから、その後の仕事にバリエーションが増えると考えられます。

――バリエーションが増えるとは、具体的にどういうことですか。

宇佐川邦子さん シニア本人が思っている以上に、さまざまな仕事のニーズに対応できるということです。

たとえば、人手不足が深刻な介護の世界では、「料理を作ることが大好き」というだけで、引っ張りだこの状態です。介護施設の料理人といったかたちでです。包丁を使ったことのない若い世代も多いようです。家事が得意ということが、シニアの仕事では貴重なスキルになるのです。

私はいま、ある地方自治体と組んで温泉街の旅館やホテルの求人の仕事に携わっていますが、高齢者率が5割に達し、深刻な人手不足です。旅館の風呂場洗いや脱衣場のお掃除などに人材が必要。そこで、たとえば得意分野を活かし、力仕事の得意な方であれば風呂場、細かい作業の得意な方は脱衣所といったローテーションを組んで働いてもらっています。

皆さん、1日2~3時間だけの仕事ですが、汗を流す作業なので、「体調がよくなったわ」と喜んでいます。温泉街も助かり、地元の貢献にもつながるのです。

――なるほど。お小遣いにもなるし、一石三鳥ですね。

宇佐川邦子さん 日曜大工や園芸の好きな人は、DIY(Do It Yourself)ショップでは、お客様に釘や鍬の選び方をアドバイスしたりできるため、店員として貴重な戦力になるようです。現役時代の自分の趣味が、仕事に役立つのです。また、企業側からみても、「いつまでも働きたい」というシニアはありがたい存在です。

――私の後輩で60代後半の男性と女性は、それぞれマクドナルドとびっくりドンキーで接客のアルバイトをしていますが、「若い人と一緒に働くのは楽しい」と言っていますね。

宇佐川邦子さん 生き生きと働いている姿はすばらしいですね。ファミレスなどでは、これまでシニアの人は「もう年だから」と自分からあきらめて、表に出ないで裏方に回るケースが多かったです。後輩さんたちはきっと、一緒に働く若い人たちから「可愛いおばあちゃん」「カッコいいじいさん」と思われているかもしれません。

前向きに働くシニアの姿を見て、将来の働く自分の「見える化」に

――ところで、現在のシニアの人たちが前向きに「いつまでも働きたい」と考えている理由はわかりましたが、今回の国際比較の調査は20歳から59歳までの現役世代が対象です。

この中には、就職氷河期を過ごしたロスジェネ世代(40歳~54歳)も含まれています。「失われた30年」で日本経済は停滞しました。

OECD(経済協力開発機構)の調査によると、1990年から2020年の間に日本人の賃金(USドル換算)は約2倍にあがりましたが、アメリカとドイツは約4倍、イギリスとフランス、韓国は約3倍に上がっています。

就職活動、さらに社会人になっても苦労したロスジェネ世代にとって、「老後に不安があるから働き続けなくてはならない」とネガティブに考えている人が多いということはありませんか。

宇佐川邦子さん ロスジェネ世代は、人口のボリュームが大きいです。一定の割合で公的年金への懸念を持つ人がいるなども言われておりますが、それでも私は、「ずっと働き続けたい」というポジティブな考え方のほうが勝っていると思っています。

もちろん、「お金のために働く」という人もおられるでしょう。しかし、さきほどの当社の「シニア層の就業・意識調査2023」(複数回答可)でもそうでしたが、「生計の維持のため」と答えた人は、同時に「社会貢献のため」「人の役に立ちたい」「視野を広げたい」とも答えているのです。人間が働く理由は1つではありません。

現役世代も、いつまでも働き続けたいとポジティブに考えているはずだと、私が考えている理由は、いまの若い世代はまわりに生き生きと働くシニアの人々を日常的に見ているからです。

定年が60歳から65歳に延長され、職場にもシニア層が増えました。ニコニコ笑って仕事をしている姿を、若い同僚が「可愛いおばあちゃん」「カッコいいじいさん」と見ている。そんなふうに、頑張っている高齢者を身近に見ることはとても大切です。将来の働く自分が「見える化」されているからです。

「もう、いい年だから」という言葉、やめようよ

――なるほど、自分の将来のロールモデルがすぐそばにいるというわけですね。

宇佐川邦子さん そのとおりです。今回、国際比較調査で「いつまでも働きたい」という人が、日本に突出して多く出た背景には、日本の「高齢化の進展」が世界最高レベルだからということがあります。しかし、それと同時並行に「高齢者の現役化」の進展も世界最高レベルなのではないかと分析しています。

先日、私の20代の後輩が、高齢者にインタビューする仕事に参加させてほしいと言ってきました。その時、「どうして?」と聞くと、「定年退職になった自分の父親の変化が気になっている。現役時代は体力もあってバリバリ頑張っていたのに、すっかり元気がなくなり、見ていて切なくなる。もう一度頑張ってもらうために、生き生きと働く高齢者たちに会いたいです」――そう言うのです。

――その気持ち、わかりますね。その後輩のお父さん、「終わった人」になっちゃったわけですね。

宇佐川邦子さん 私の後輩のように、お父さん世代はいつまでも生き生きと働いて欲しい。そして、自分もそうなりたいと考えている若い世代が、どんどん増えていることを感じています。「日本はすばらしい国だ」と強く訴えたいです。

――最後にシニアの人々、そしてこれからシニアになる人々に贈るエールをおねがいします。

宇佐川邦子さん 「もう、いい年だから」という言葉、やめてもいいと思います。「お母さん、もう、いい年だから。無理しないで。働かなくていいよ」とか、「私、接客の仕事やりたいけど、もう、いい年だから。人前に出るのはちょっとムリムリ...」とか。

働く意欲のある人をあきらめさせたり、自分の言い訳にしてしまっていたりしませんか。いくつになっても好きなことができるシニアになりましょう!

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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