シニアになると、仕事のバリエーションが増える
――どういうことですか。
宇佐川邦子さん 若い世代の仕事との関わり方は、ある意味、パターン化しています。
たとえば、新卒の人は仕事が未経験なので、まず仕事を覚えなくてはならない。次に、結婚するかどうか等の選択があり、結婚すれば子育てと仕事の両立が課題となります。その状態が50代くらいまでは大きく変わらないことが多いです。
しかし、60歳を超えたシニアの生き方は、さまざまなパターンに満ちています。たとえば、2人の高校生の子どもがいて、仕事を懸命にしなくてはならない人。一方、子どもが独立して、自分の好きな仕事に打ち込める人。逆に介護する親を抱えている人。また、自分自身の病気と闘いながら働く人。
それに、身近な人と死別した悲しい経験を持つ人や、長い仕事生活の中で挫折した経験を持つ人もいるでしょう。つまり、若い世代と違って、人生経験と仕事経験の積み重ねが広くて深いですから、その後の仕事にバリエーションが増えると考えられます。
――バリエーションが増えるとは、具体的にどういうことですか。
宇佐川邦子さん シニア本人が思っている以上に、さまざまな仕事のニーズに対応できるということです。
たとえば、人手不足が深刻な介護の世界では、「料理を作ることが大好き」というだけで、引っ張りだこの状態です。介護施設の料理人といったかたちでです。包丁を使ったことのない若い世代も多いようです。家事が得意ということが、シニアの仕事では貴重なスキルになるのです。
私はいま、ある地方自治体と組んで温泉街の旅館やホテルの求人の仕事に携わっていますが、高齢者率が5割に達し、深刻な人手不足です。旅館の風呂場洗いや脱衣場のお掃除などに人材が必要。そこで、たとえば得意分野を活かし、力仕事の得意な方であれば風呂場、細かい作業の得意な方は脱衣所といったローテーションを組んで働いてもらっています。
皆さん、1日2~3時間だけの仕事ですが、汗を流す作業なので、「体調がよくなったわ」と喜んでいます。温泉街も助かり、地元の貢献にもつながるのです。
――なるほど。お小遣いにもなるし、一石三鳥ですね。
宇佐川邦子さん 日曜大工や園芸の好きな人は、DIY(Do It Yourself)ショップでは、お客様に釘や鍬の選び方をアドバイスしたりできるため、店員として貴重な戦力になるようです。現役時代の自分の趣味が、仕事に役立つのです。また、企業側からみても、「いつまでも働きたい」というシニアはありがたい存在です。
――私の後輩で60代後半の男性と女性は、それぞれマクドナルドとびっくりドンキーで接客のアルバイトをしていますが、「若い人と一緒に働くのは楽しい」と言っていますね。
宇佐川邦子さん 生き生きと働いている姿はすばらしいですね。ファミレスなどでは、これまでシニアの人は「もう年だから」と自分からあきらめて、表に出ないで裏方に回るケースが多かったです。後輩さんたちはきっと、一緒に働く若い人たちから「可愛いおばあちゃん」「カッコいいじいさん」と思われているかもしれません。