東京商工リサーチの最新の調査結果によると、パン製造小売りの倒産は2023年4月~24年3月で37件(前年度比85.0%増)となった。
「一大ブームを巻き起こした高級食パンブームにも陰りがみえ、新たな需要の創出やコスト管理、価格転嫁など、パン屋さんに課せられた経営課題は多い」と指摘している。フードアナリストの堀部太一さんに取材し、高級食パンの現状を聞いた。
円安や燃料高、小麦・バター・牛乳価格上昇
東京商工リサーチが2024年4月5日発表した「パン製造小売の倒産動向」調査によると、23年度の倒産件数は、年度では過去最多を記録した。コロナ関連倒産が17件で最多。コロナ禍ではテイクアウトブームに加え、行政から飲食店と同様の支援を受けられた。20年度の倒産件数は1件、21年度は3件と低水準だった。しかし、各種支援は終了し、その影響が顕著に出たようだ。
物価高倒産は10件で、前年度比で倍増した。円安や燃料高、ロシアのウクライナ侵攻による小麦価格に加えて、バター・牛乳などの価格の上昇が深刻だ。
なかでも高級食パンは、23年に閉店した店舗を公式サイトなどで調べてみると以下のように続出している。
高級食パン専門店 大地はドラムと優しい麦(北海道):2023年8月
高級食パン専門店 目尻がさがる(岐阜県):2023年8月
高級食パン専門店 まさかナンパ(神奈川県):2023年10月
高級食パン専門店 恋が愛に変わるとき(富山県):2023年10月
福岡県で高級食パン「乃が美」を販売していた「うまいす」は、2024年3月5日に倒産している。
東京でもよほどの優位性がないと難しい
外食・デリバリーを中心に飲食店のコンサルティングを行う堀部氏は、高級食パン専門店について、富士経済が発表した2020年のデータを引用し、市場規模は300億円程度であると説明。「これはそもそも『地方では成り立たない程の規模の小さい市場』です」と指摘した。
「高級食パンを食べるお客様の利用頻度で考えると、月商500万円まで売ろうとすると、30万人都市程度でないと厳しい」
と言う。調べると、県庁所在地でも人口30万人に満たない市がある。相当の規模の場所でないと、経営が続かないことになる。
東京都内での高級食パン店の出店は「地方よりは成り立ちやすくはなります」という。だが、家賃の高さや競合の多さのため、よほどの優位性がない限りは難しいと述べた。
一方で、食パン専門店の市場規模は300億円だが、外食や宿泊施設、ブライダルなどの業務用やコンビニエンスストア、スーパーで販売される広義のパン市場は約1兆5000億円の巨大市場だ。ごく一般のパン製造業市場だけでも、約4500億円に上る。
実は、高級食パン専門店から一般的なパン販売店に鞍替えする戦略を取ることは多いと堀部氏。直営店舗やフランチャイズ(FC)本部に自由度があるところでは、「食パン以外のアイテム付加で利用頻度増を狙っているところもあります。食パン専門店から、食パンが名物のベーカリーにスライドさせていくことが可能です」と回答した。