「周囲に合わせなくていい。職場で一番になれるスキルを!」 劣等感に悩む若手がハッとした上司の一言(3)

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   上司の言葉がけひとつで、モチベーションが高まった経験はありませんか?

   会社の中で実際に起きた困ったエピソード、感動的なエピソードを取り上げ、人材育成支援企業代表の前川孝雄さんが上司としてどうふるまうべきか――「上司力」を発揮するヒントを解説していきます。

   今回のエピソードを踏まえ、前川さんは「チャンスとは、会社という組織に属しているからこそ訪れる、波のようなもの。そして、さまざまな波を乗りこなすことで成長できる」といいます――。

  • 劣等感に悩む若手がハッとした一言とは
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次々と襲い来る壁をチャンスにして成長――キャリア波乗り論

   <「周囲に合わせなくていい。職場で一番になれるスキルを!」 劣等感に悩む若手がハッとした上司の一言(2)>の続きです。

   上司のアドバイスを胸に、仕事に向き合い直したNさん。社内を何度も往復し根気よくコミュニケーションをとるうちに、仕事が回り始めます。

   上司が、関係する各部署のリーダーにNさんの働きぶりを聞いてみると、『一緒にいいものを作ろうとしてくれる』と、皆一様に評価してくれました。

   目先のアウトプットのクオリティのみならず、中長期視野で安定的に仕事を為すための人間関係構築を、Nさんはクリアできたのです。

   こうして、マーケティング部署のキーマンとして、自分のポジションを確立していきます。

   自ら希望した部署でのスタート地点に立った今、「いよいよこれから」と士気を高めています。そんな彼女に、会社と上司について感じていることを尋ねると...。

「会社には、節目ごとに自分が進みたい道へのチャンスを与えてくれたことに感謝しています。手に職としてのITエンジニア、難関資格の取得、コンテストでの優勝、社内公募...などと、私はキャリア目標を定め直してきました。その都度クリアするためのチャンスを、会社は提供してくれたのです」
「自分が変わりたいと声を上げれば、ちゃんと向き合ってくれ、成長につながるキッカケを用意してくれた上司の存在も大きかったです。自分のこれまでの成長は、上司のサポートなしにはありえませんでした。一つひとつの達成感は自分自身の苦労の賜物なのでしょうが、恵まれた環境にいたからこそ実現できたのです」

   Nさんのエピソードから私が思うのは、「チャンス」とは会社という組織に属しているからこそ訪れる、波のようなものだ、ということです。

   変化の激しい時代。やがて襲い来る波の高さや大きさは予想できないけれど、柔軟に受け止めて、流れをうまく乗りこなせれば、働きがいや成長を手に入れることができる――。

   私はこれを「キャリア波乗り論」と呼んでいます。

   Nさんが成長できたのは、まさにさまざまな波を乗りこなしてきたからこそと言えるでしょう。

部下自身も気づいていない持ち味を活かし育てる「上司力」を

   Nさんは、自分が先に進もうとするたびに向かってくる波から逃げることなく、キャリアにとっての意味づけを考えて、目標を立て直し、アクションを起こしています。

   上司に「何も習得できていない」と打ち明ける。現状に満足でないことを率直に話す。チャレンジの機会があればまずは挑戦する......。そうした行動を起こすことで、上司や同僚はさらなるきっかけを与えてくれたのです。

   会社を取り巻く環境を個人の力で変えることは難しいですが、その中でどのように立ち振る舞うかは個人の裁量によるものです。

   大きな海を目の前にして、ビーチに座るか波に挑んでいくかを選ぶのも、自分次第。歩みを止めないことです。波を避けて留まっているだけでは、働きがいや成長を得ることは難しいのです。

   少し古いですが、東京大学の玄田有史教授らは「希望学」という学問を作り、興味深い調査結果を発表しています。

   中学3年生の頃に職業希望があった20歳~49歳の人のうち、「その後も同じ仕事を希望し続けた」は42.5%、「希望する仕事はその後特になくなった」は21.0%、残りが「(当初)希望する仕事はあったが、その後なくなり、別の仕事に希望は変わった」。

   中学3年生の時に、職業希望がなかった人よりはあった人のほうが、大人になってからの働きがいの経験割合は高くなる。そして、示唆に富んだ発見は、職業希望のあった人の中で最も働きがい経験割合が高かったのは、当初の希望が別の希望へと変わっていった人たちだった、とのことです(『希望のつくり方』岩波新書、2010年)。

   Nさんの場合、大学は文系で、ITの進化が社会に及ぼす社会学を専攻。その後、エンジニアを目指してスキル習得に苦労しながらも自分ならではの得意分野を開拓し、大きな仕事を達成しました。

   その後は、マーケティング部門に異動して、新たな成果を出しました。それぞれのプロセスで次々と希望=目標を設定し直し、達成しながら、その都度働きがいと成長を得てきたのです。

   また、Nさんを育てた上司たちの働きにも留意したいところです。Nさん自身の目先の希望とは異なる道に導きながら、時に厳しい環境を与え、本人の可能性を開花させていったのです。

   「ジョハリの4つの窓」の中の「盲点の窓」(他者には見えて、自分には見えていない自分)に着目し、部下自身が自覚していない本人の持ち味を見出し、機会を提供することで育てる。そうした上司力が、求められているのです。

   部下を持つ読者には、Nさんのエピソードをこの視点から読み深めてほしいと思います。

(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)



【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。
近著に、『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)、『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!』(FeelWorks、2024年4月)など。

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