「周囲に合わせなくていい。職場で一番になれるスキルを!」 劣等感に悩む若手がハッとした上司の一言(3)

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部下自身も気づいていない持ち味を活かし育てる「上司力」を

   Nさんは、自分が先に進もうとするたびに向かってくる波から逃げることなく、キャリアにとっての意味づけを考えて、目標を立て直し、アクションを起こしています。

   上司に「何も習得できていない」と打ち明ける。現状に満足でないことを率直に話す。チャレンジの機会があればまずは挑戦する......。そうした行動を起こすことで、上司や同僚はさらなるきっかけを与えてくれたのです。

   会社を取り巻く環境を個人の力で変えることは難しいですが、その中でどのように立ち振る舞うかは個人の裁量によるものです。

   大きな海を目の前にして、ビーチに座るか波に挑んでいくかを選ぶのも、自分次第。歩みを止めないことです。波を避けて留まっているだけでは、働きがいや成長を得ることは難しいのです。

   少し古いですが、東京大学の玄田有史教授らは「希望学」という学問を作り、興味深い調査結果を発表しています。

   中学3年生の頃に職業希望があった20歳~49歳の人のうち、「その後も同じ仕事を希望し続けた」は42.5%、「希望する仕事はその後特になくなった」は21.0%、残りが「(当初)希望する仕事はあったが、その後なくなり、別の仕事に希望は変わった」。

   中学3年生の時に、職業希望がなかった人よりはあった人のほうが、大人になってからの働きがいの経験割合は高くなる。そして、示唆に富んだ発見は、職業希望のあった人の中で最も働きがい経験割合が高かったのは、当初の希望が別の希望へと変わっていった人たちだった、とのことです(『希望のつくり方』岩波新書、2010年)。

   Nさんの場合、大学は文系で、ITの進化が社会に及ぼす社会学を専攻。その後、エンジニアを目指してスキル習得に苦労しながらも自分ならではの得意分野を開拓し、大きな仕事を達成しました。

   その後は、マーケティング部門に異動して、新たな成果を出しました。それぞれのプロセスで次々と希望=目標を設定し直し、達成しながら、その都度働きがいと成長を得てきたのです。

   また、Nさんを育てた上司たちの働きにも留意したいところです。Nさん自身の目先の希望とは異なる道に導きながら、時に厳しい環境を与え、本人の可能性を開花させていったのです。

   「ジョハリの4つの窓」の中の「盲点の窓」(他者には見えて、自分には見えていない自分)に着目し、部下自身が自覚していない本人の持ち味を見出し、機会を提供することで育てる。そうした上司力が、求められているのです。

   部下を持つ読者には、Nさんのエピソードをこの視点から読み深めてほしいと思います。

(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)



【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。
近著に、『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)、『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!』(FeelWorks、2024年4月)など。

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