米グーグルやアップルやアマゾンなどの、いわゆるGAFAが「日本で税金を払っていないのではないか」という声を耳にすることがある。国民の多くがサービスを利用し、莫大な利益を得ているはずなのに、なぜだろうか。
これにはITの時代になって、企業に対する課税の手法が様変わりしたことが大きい。経済が製造業主体だった時代は、事務所や工場などのように事業を継続的に行う場所(恒久的施設と呼ぶ)が物理的に存在するところに税金をかければ良かった。しかしITの時代になり、どこの国や地域で課税するべきかを判断するのが難しくなった。そこで、税金をいかに安く抑えるかについての手法が発達した。
日本の法人実効税率は高め
最も広く行われるのが、国や地域による税率の違いの利用だ。日本の法人実効税率は、29.74%。米国の25.77%や英国の25.00%など、他の主要国と比べて高めである。グローバルに活動している企業にしてみると、日本で得た利益を税率の低い国に付け替えることができれば、税金が減らせるということだ。
そこで各社は、さまざまな策を弄する。例えばアマゾンは千葉県市川市に、配送センターを持っていた。同社はこう主張する。「倉庫はモノを一時保管しているだけなので、恒久的施設ではない。したがって日本で課税されるべきではない」と。それに対して日本政府は「あの巨大な配送センターは、事業の中核的存在だ」と主張する。
2009年7月5日付の朝日新聞は、東京国税局がアマゾンの配送センターを恒久的施設として、同社に追徴課税処分をしていたことを報じた。これについて、日米当局が交渉していたとも伝えている。しかし日米租税条約下で、日米二か国が交渉して日本の言い分が通るはずもなく、税金は大して取れていないと見られる(公表されないので、本当のところはわからない)。
低い税率で利益を得る国
自国の法人税率を下げることにより利益を得ている典型的な例が、アイルランドである。法人実効税率を12.5%と低く抑えることで、アップルやグーグル、ファイザーなどの米国企業が軒並み進出した。
例えばグーグルは、人口約500万人のアイルランドで9000人を雇用している。同国の一人当たりGDPはこの十年間で倍増し、現在約1700万円。日本の三倍以上となっている。この数字は海外の利益を同国につけかえたことで大きく膨らんでいるので、ある程度割り引いて受け取るべきだが、もともと大きな産業がなかったアイルランド経済が低い税率を武器に、大きく伸びてきたことは間違いない。
これは円安でインバウンド・ビジネスを伸ばしている日本と似ている面があるが、日本の観光業の活況がいわば偶然の産物であるのに対し、アイルランドは中長期的な国家戦略として行ってきたところが異なる。
総力を挙げて対抗してくる
GAFAの母国である米国にしてみると、アイルランドは米国が取るべき税金を横取りしているという話になる。そこでバイデン大統領は、税率の低い国がもうけられないように、世界の法人税の最低税率を15%に設定するよう提案した。これには、アイルランドのような国が棚ぼたで利益を得ているのを苦々しく思っていた欧州諸国や日本を含む140か国以上が賛成した。
この制度は近々日本でも導入される見込みだが、日本でのGAFAからの税収が増えるだろうか。理屈の上ではそうなるだろう。日本のように、GAFAの売り上げが非常に大きいのに今まで税金をかなり取りこぼしていた(とみられる)国にとって、税収増の余地が大きいことは間違いない。世界的枠組みの中で進められるのも、政治力がイマイチの日本にとっては好ましい。
しかし実際にどこまで効果があるかというと、怪しい面も残る。GAFAを始めとする巨大な多国籍企業にとって、税金に関する部分は最重要項目の一つ。総力を挙げて対抗してくるので、米国政府でさえなかなか思うように防御出来ていないのが現実だ。日本がそうそううまく立ち回れるとは考えにくい。しかも15%というのは、まだまだかなり低いので、結局は相変わらずアイルランドの天下が続くのかもしれない。(小田切尚登)
筆者プロフィール
おだぎり・なおと 幅広い分野で執筆活動やレクチャー等を行っている。バンク・オブ・アメリカ等大手外資系投資銀行数社で勤務した後独立。クラシック音楽サロン「シンフォニー」代表。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。『欧米沈没』(マイナビ新書)。