表面的な賃上げとは必ずしも一致しない実体も
――連合資料によると、今年の賃上げは平均で5%を超え、事前予想をはるかに上回る「歴史的な賃上げ」になりました。今回こそ、ロスジェネ世代は恩恵をこうむることができるでしょうか。
また、実質賃金が22か月連続のマイナス(2024年3月、厚生労働省発表現在)を更新中ですが、プラスに転じることができるでしょうか。
永濱利廣さん 両方とも微妙ですね。
まず、企業側が「賃上げアピール」をしたいために記録的な賃上げ率になりましたが、個々の具体的な企業の中身を見ると、あまり実質が伴っていないケースも散見されます。
たとえば、新入社員の初任給を大幅に引き上げると、大々的に発表している会社でもかなりの固定残業代が含まれているケースなどもあり、そうした「賃上げアピール」の例が少なからずあると思われます。
また、給料は「所定内給与」だけではありません。残業などの時間外手当も含めた「所定外給与」、さらにボーナス(賞与)もあります。賃上げ率は主に「所定内給与」に影響しますが、総労働時間規制が進行しているため、「所定外給与」は増えにくい傾向にあります。
さらに、昨年の「歴史的な賃上げ」の結果を分析すると、多くの企業が基本給である「所定内給与」を増やしましたが、その分、ボーナスを減らしたケースもありました。
マクロ経済から見て、企業の総人件費は「30年ぶりの賃上げ」といわれるほど増えていません。これからは、自社株を社員に譲渡する方法で賃上げとする企業も増えていくでしょう。
<ロスジェネ世代はつらいよ...昨年は「歴史的賃上げ」でも賃金増えなかったが、今年は恩恵ある?(2)/第一生命経済研究所の永濱利廣さんに聞く>に続きます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
永濱 利廣(ながはま・としひろ)
第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
担当:内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。
1995年第一生命保険入社。1998年日本経済研究センター出向。2000年第一生命経済研究所経済調査部。2016年4月より現職。
著書に『エコノミストの父が、これだけは子どもたちに教えておきたい大切なお金の話 増補・改訂版』(ワニ・プラス)、『給料が上がらないのは、円安のせいですか?』(PHP研究所)、『日本病 なぜ給料と物価は安いママなのか』(講談社現在新書)、『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』(講談社現代新書)など多数。