「管理職=罰ゲーム」には、プラスとマイナス効果
――なるほど。ロスジェネ世代は生涯、転職に保守的という価値観は変わらないというわけですね。
しかし、ロスジェネ世代が管理職になっても報われずに、会社の冷遇に耐えていることが、若い世代からは「管理職=罰ゲーム」に見えて、管理職になりたがらない若者が増えている原因とする見方が出ています。
永濱利廣さん 「管理職=罰ゲーム」論は捉え方次第ではそうなのかもしれません。
しかし、プラスとマイナスの両面が考えられます。まず、マイナス面では管理職がネガティブに捉えられれば、なりたい人が減って会社側が困るという側面があります。
逆にプラスの効果としては、若い人が管理職を冷遇する会社のやり方を目の当たりにすれば、「こんな会社で出世するのはバカバカしい」と、真剣に転職を考えるきっかけになることです。
若い人がどんどん転職すれば、会社も困って人材引き止めに本腰を入れなくてはならなくなり、社員の待遇をよくして賃金を上げる動きが加速するかもしれません。
転職がもっともっと増えて、労働市場の流動性が高まれば、日本企業の平均賃金は上がりやすくなるでしょう。
――ところで、リポートの分析で不思議なのは、若い世代の賃上げ率が高いことはわかりますが、65歳以上のシニア世代の賃上げ率が10~11%増と異様に高いことです。 私自身も70歳代で働いていますが、シニアになってから収入が大きく下がったことはあっても、高くなったことはありません。
永濱利廣さん それは統計のトリックです。シニアひとり一人の個人収入が上がったわけではなく、シニア層全体の平均収入額が上がったということです。
――どういうことでしょうか。
永濱利廣さん まず、定年延長によってシニアになっても正社員で働く人が増えました。以前であれば定年後は非正規のパートだった人が、正社員で雇用が続く分、シニア層全体の収入が上がっています。
かといって、会社がシニア層全体の総人件費を増やしたわけではありません。その点、会社はしたたかに計算しています。シニアになる前の年代、50代から段階的に賃金を抑制して、シニアになってから支払う分に回しています。
たとえば、それまで毎月支払っていた賃金の一定割合を積み立てるといった方法で、シニアになった後の賃金の原資をひねり出しています。
こうしたことも、昨年「30年ぶりの賃上げ」を記録したにもかかわらず50歳~54歳の所定内給与がマイナスになった一因かもしれません。
ただし、シニア層個人の毎月の収入が増えたわけではないとはいえ、長く働けるようになった分、生涯に得られる総賃金は増えるかもしれません。