任天堂が「原則出社の方針」を明確にした。2024年3月27日に発表した、「任天堂の人材に対する考え方」のなかで、示されている。
コロナ禍では在宅勤務が広がり、その後も柔軟な働き方を認める企業がある。だが任天堂では、原則出社の働き方が社内コミュニケーションの質を高め、同社の強みになると考えているようだ。
ホンダも「リアルに人と人とが対面」重視
コロナ禍だった2020年、任天堂は在宅勤務を取り入れていた。だが前述の通り、24年3月27日発表の「任天堂の人材に対する考え方」の中では、現在は「原則出社の方針」をとっていると明らかにしている。理由は、次の通りだ。
「社員一人ひとりの強みを掛け合わせて独創的な娯楽をつくるため、また社員の成長のために、顔を合わせて密度の高いコミュニケーションをとることが効果的と考えています」
任天堂の開発した「独創的な」ゲームは、世界で認められている。同社の2024年3月期第3四半期決算で、全世界でのソフトの売上本数は「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」が2028万本、マリオシリーズの「Super Mario Bros. Wonder」が1196万本だった。100万本以上売れたミリオンセラーのタイトルは、24本(当期)となっている。
「原則出社」としている国内の大手企業は、ホンダやGMOインターネットグループがある。このうちホンダは「2022年統合報告書」で、さまざまな知見を持つ人が活発に議論を交わすことで、本質に深くアプローチをし、驚くようなアイデアにたどり着けると理由を説明。「リアルに人と人とが対面することで生まれる化学変化こそがHONDAの強み」と強調している。
NTTはリモートを基本
対照的な働き方をしているのが、NTTの主要グループ会社だ。同グループでは、2022年7月1日からワークインライフ(健康経営)をより一層推進していく観点から、勤務場所は「社員の自宅」とするリモートワークを働き方の基本としている。日本全国どこからでもリモートワークによって働くことを可能とする制度(リモートスタンダード)を導入し、 転勤や単身赴任を伴わない働き方を拡大していく考えだ。
ワークスタイル研究家の川上敬太郎氏は、原則出社のメリットについてこう説明する。「働き手が自分の担当すべき業務の全体像を把握できておらず、都度上司の指示を待たないと動けない体制の職場だと、職場に集合している方がコミュニケーションをとりやすい分、生産性は高くなります」。
一方で最大のデメリットとして、通勤時間を挙げる。仮に通勤に片道1時間かかる人の場合では、往復で2時間。月に20日勤務すると40時間分、年間だと12か月で480時間を通勤に要する試算となる。私生活への影響を指摘した。
人材は「リモートOK」の職場に移る可能性
出社と在宅勤務について、人材定着の面から聞いた。リモートワーク経験者で、「出社には二度と戻りたくない」と考える人は少なくないと川上氏。リモートワークを認める会社の求人は、それを不可とするところより応募率が高い傾向にあると指摘する。「出社一択」の職場は、それが理由でリモートワークOKの職場の方に人材が移っていく可能性は十分あると話す。
「子育て中などで仕事以外のことで時間が取られがちな人は、リモートワークのほうが、仕事がよりはかどる可能性があります」
ただし、リモートワークでは、クラウドやサーバー上で全ての仕事が完結できないと難しい面があるという。環境が整っていないのに無理にリモートワークしたところで、「生産性が低くなるのは当然」とした。