多数の健康被害が出た小林製薬(大阪市)の「紅麹」が含まれたサプリメント商品は、成分の有効性を示す文献を示して消費者庁に届け出るだけでいい「機能性表示食品」だった。
報道によると、機能性表示食品として自主回収した初のケースだという。しかし、サプリを利用した人のうち計5人が亡くなるなど被害が拡大したことで、機能性表示食品の存在意義が今後問われそうだ。
小林製薬「トクホの申請には時間がかかる」
「悪玉コレステロールを下げる」。問題となった小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」は、機能性表示食品として紅麹の効果をこううたい、2021年4月から販売を続けた。
効果の機能性などを示した食品には、「特定保健用食品(トクホ)」もある。トクホは、届け出だけの機能性表示食品とは違い、消費者庁が審査して許可することになっている。
なぜトクホを選ばなかったのかについて、小林製薬の広報・IR部は24年3月28日、「トクホの申請には時間がかかるため、いち早くお客様に商品をお届けしたいと考える社風などから、機能性表示食品を選びました」と取材に答えた。
そもそも、機能性表示食品が15年4月からスタートしたのは、商品化へのスピード感を重視したためだった。
これは、13年6月に安倍晋三首相(当時)が規制緩和による経済成長戦略の第3弾、いわゆる「アベノミクスの第3の矢」として導入を表明したものだ。安倍首相はスピーチの中で、トクホには金も時間もかかるとして、健康を守るために的確な情報提供が必要だと強調していた。
とはいえ、機能性表示食品は、文献評価を付けるだけで済むため、効果に科学的な根拠があるのか、安全性は本当に保たれているのかとの懸念が多い。
トクホとして許可されるのは「8つの要件」満たす必要
それでは、紅麹が含まれた商品は、トクホとして申請すればよかったのだろうか。
この点について、消費者庁の食品表示企画課は3月29日、J-CASTニュースの取材に対し、トクホとして許可するためには8つの要件をクリアしなければならないと説明した。
同庁の「特定保健用食品の審査等取扱い及び指導要領」によると、効果について医学的、栄養学的に科学的根拠があることや、食品やその成分が文献から安全と分かることなどだ。
紅麹の機能性をうたったトクホ商品について、同課は、過去にメーカーから申請が出たことはないと明らかにした。もし申請が出た場合、「8つの要件をクリアしているか、申請の内容を見て許可の有無を決めます」と述べており、許可されれば、国が効果や安全性を担保することになるようだ。
ところで、そもそも「悪玉コレステロールを下げる」効果は、どこまで科学的根拠があるのだろうか。
効果の科学的根拠も、紅麹の安全性も、不透明なまま
紅麹を説明した小林製薬のサイトによると、1979年に東京農工大学の遠藤章氏助教授(当時)が紅麹菌から高いコレステロール抑制効果を持つ成分を発見し、その成分は「モナコリンK」と名付けられた。
各社の報道によると、その後、米製薬会社メルクがモナコリンKと同じ成分の「ロバスタチン」を別の麹菌から発見し、海外では、コレステロール抑制薬としてこのロバスタチンが流通している。ただ、厚労省の医薬品審査管理課によると、日本では、これらの成分は医薬品として承認されていない。
同省の監視指導・麻薬対策課によると、疾病を治すという表示はNGだが、今回の商品がうたった効果については、医薬品ではなく健康維持の範囲内だとみなされる。いずれにしても、効果の科学的根拠は、日本でははっきりしていないようだ。
紅麹の安全性については、内閣府の食品安全委員会が2014年3月、その機能性をうたったサプリメントによる健康被害が欧州で報告されているとして、注意喚起したことがある。今回のような腎疾患につながるカビ毒の一種シトリニンを一部の紅麹菌が生成しているという。
これに対し、小林製薬は、同社の紅麹にはシトリニンは含まれていないとサイトで説明しており、今回の健康被害でも商品から検出されていないという。ただ、24年3月29日の会見でも、カビから生成された意図しない成分が含まれていた可能性があると明かしており、安全性についても不透明な部分が残っている。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)