米メジャーリーグのスーパースター、大谷翔平選手の通訳であった水原一平氏の違法賭博事件は、大きな話題になった。
事件は突然だった。大谷選手の所属するドジャースとバトレスとの開幕戦は3月20、21日に韓国で行われた。20日の第1戦の後に、水原氏がドジャースから解雇された。当初の報道では、水原氏がギャンブル中毒だったこと、大谷選手がその肩代わりをして違法ブックメーカーに送金したとされた。しかし、大谷選手代理人は、水原氏が大谷選手から窃盗したので捜査当局に委ねたとし、一方で水原氏は発言を撤回したと報道された。
26日、大谷選手から、水原氏がギャンブル中毒であることや自身の銀行口座から勝手に送金されていたのを知ったのは、20日の開幕戦後、マスコミからの問い合わせで知ったと述べた。
水原氏は通訳としては一流である。しかし、ギャンブル中毒者なので、ギャンブルに関しては平気で嘘をつく。この点を踏まえ、水原氏のマスコミへのインタビューでの発言撤回と大谷選手の会見で、両者には齟齬がない。後は、水原氏が勝手に送金できるかどうかが問題として残っている。
事実上の個人秘書でもあった水原氏
水原氏は大谷選手の通訳とはいえ、事実上の個人秘書でもあった。であると、一定の資金管理権限があり、特定の銀行口座管理を任されていた可能性がある。筆者は、政治家の秘書の知人もいるが、そうした役割の人も知っている。
また、大谷選手が米国で銀行口座を開設したとき、一人でやっただろうか。おそらく通訳として水原氏が同席しただろう。そうであれば、水原氏はその口座にアクセスできても不思議でない。米国銀行からの送金は、二段階認証であるのが通例だが、それでも大谷選手から一定の授権があればアクセスは可能だ。
日本でも、親族なら本人に代わって銀行送金は出来る。思いかえすと、韓国での開幕戦で、大谷選手の両親、奥さんとともに、水原氏の奥さんも一緒に観戦していた。これは、水原氏が大谷選手の家族同然という証だろう。
大谷選手にとってショック以上のものがあるだろう。ただし、トラブルについて本人だけで処理せずに第三者の代理人を介在させて対処するという米国生活の鉄則を守ったのはさすがだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。