万能薬はない だからこそ、多様な働き方を用意すべき
――介護離職者は年間10万人にのぼります。一方、介護者の6割が有業者で、しかも男女とも50~54歳が中心です。会社では管理職世代で、仕事との両立に奮闘しています。会社や政府はこうした人々の支援に何をすべきと考えますか。
川上敬太郎さん いま介護している人だけに限定すると比率が低いため、特殊なケースのように映ってしまいます。まずは、会社も社会も、介護と仕事の両立はイレギュラーケースではなく、レギュラーケースだと認識を改める必要があります。すると、働き方の前提も変わってきます。
いまは1か所の職場に集い、週5日以上にわたって9時~18時など、長時間拘束される働き方が基本です。
しかし、介護はいつ始まりいつ終わるかわかりません。少しでも介護と仕事の両立がしやすくなるよう、希望すれば誰もがいつでも短時間勤務やフレックス勤務、テレワークといった柔軟な働き方を選択できる状態が基本になるようにしていく必要があります。
そのため会社には、「柔軟な働き方」と「成果」を両立できるよう、業務体制を再設計すること。政府には、介護に携わる人が仕事と両立させやすくなるよう、希望に応じて柔軟な働き方や休み方が選択できる制度を検討することが求められるのではないでしょうか。
――たしかに、そのとおりですね。厚労省の調査によると、「介護離職をしないで仕事と介護を両立させたほうが、経済的、精神的、肉体的にもいい」という結果が出ています。こうしたことについては、どう思いますか。
川上敬太郎さん もちろんケースバイケースですが、介護のために仕事を辞めたり、介護中心の生活に移行したりすると、介護する側が追い込まれて心身の健康が保てなくなり、共倒れになる懸念はあると思います。
介護のためには仕事や生活を犠牲にするしかないという、選択肢のない社会にしないようにするための取り組みが必要だと感じます。
――川上さんは、ズバリ、介護と仕事の両立について何が大切だとおもいますか。
川上敬太郎さん ひと口に介護といっても、ケースごとに置かれている状況も症状も異なります。そのため、どんなケースにも上手く適合する万能薬のような施策は存在しないのだと思います。
だからこそ、働き方においても利用できる施設やサービスにおいても、できる限り多くの選択肢が用意されて、個々の事情に応じて最適な組み合わせが選択できる状態に近づけていく取り組みが大切になるのではないでしょうか。
――はっきりした解決策がないからこそ、多くの選択肢を用意すべきだということですね。
川上敬太郎さん はい。介護だけでなく、長時間労働の削減や男性の育休取得促進など、さまざまな課題に共通するのは、柔軟な働き方の必要性です。
常に「全員集合&フルタイム勤務」を前提とする考え方ではなく、それも選択肢の1つとしたうえで、個々の事情に合わせた個別最適の働き方を前提としながら成果を出していく取り組みが、あらゆる職場に求められているのではないでしょうか。
実質的に「全員集合&フルタイム勤務」一択しかない職場ばかりでは、いざ介護の必要性が発生した際に、退職以外の選択肢がない状況に追い込まれてしまいます。そういう状況を回避することこそが、本当の意味での働き方改革なのではないでしょうか。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)