やっぱり罰ゲームなのか 課長の95%はプレイングマネジャーという調査報告...なぜ?自分が活躍したいから? 産業能率大学 経営管理研究所・原義忠さんに聞く「課長の悲哀」(1)

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   「課長はつらいよ」というため息が聞こえてきそうだが......。

   「課長は罰ゲーム」という議論が広がるほど、管理職になりたがらない若者が増えているなか、課長の95%が部下と同じ仕事をこなす「プレイングマネジャー」であるという研究報告が発表された。

   課長は管理職ではなく、プレイヤーに生き甲斐を見出しているのか。課長が本来の元気を取り戻すにはどうしたらいいか。報告をまとめた研究者に「課長へのエール」を聞いた。

  • 課長の95%はプレイングマネジャー…それはいいことなのか
    課長の95%はプレイングマネジャー…それはいいことなのか
  • 原義忠さん(本人提供)
    原義忠さん(本人提供)
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  • 原義忠さん(本人提供)

3割以上の課長が「リストラ」を感じている

   この研究報告は、産業能率大学経営管理研究所主席研究員の原義忠さんがまとめた「現代における『課長の価値』とは? 実態調査の結果から見えた最新傾向を分析」(2024年2月19日付)というリポートだ。

   従業員が300人以上の上場企業で、部下がいる課長級管理職809人(男性769人、女性40人)を対象にしたアンケート調査(2023年7月25日~26日)から分析した。

   リポートによると、組織のスリム化や人手不足によって、部下と同等に働くプレイングマネジャーの存在が常態化しており、課長の約95%が「自分はプレイングマネジャーだ」と答えた【図表1】。

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(図表1)95%の課長がプレイングマネジャーと回答(産業能率大学 経営管理研究所調べ)

   くわえて、50%超の課長が「年上部下」とともに仕事をし、「在宅勤務」(約34%)や「労働時間・場所に制約がある部下」(約20%)、「メンタルヘルスに不調を抱える部下」(約17%)などを、チームとして束ねることを求められている。

   今日の課長像は、課長自身が若かりし日に見てきたものとは全く異なっているのだ。

   そのうえ、会社からはパワハラやセクハラなどの「リスクマネジメント」や「コンプライアンス」といった、今日の職場運営上の「必須項目」に対処することを求められ、そのプレッシャーに疲弊している。

   このため、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」や「ダイバーシティー&インクルージョン(D&I)」の勉強など、自分が本当にやりたい「自己啓発」の余裕がない状況だ【図表2】。

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(図表2)「やりたいこと」や「自己啓発」に目を向ける余裕がない(産業能率大学 経営管理研究所調べ)

   また、30%以上の課長が「自らのリストラの可能性」を感じ取りつつ日々の仕事をこなし、60%以上の課長が「自分の部下を育成する力」に自信を持ち切れていないという【図表3】【図表4】。

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(図表3)30%以上の課長が「リストラの可能性」を感じている(産業能率大学 経営管理研究所調べ)
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(図表4)60%以上の課長が「部下を育成する力」に自信を持ち切れていない(産業能率大学 経営管理研究所調べ)

   こうした課長の悩みや葛藤に対し、会社は支援してくれているのか――。

   「職場メンバーの求めに応じて、ヒト、モノ、カネ、ノウハウなどの必要な資源を提供している」と回答した課長は40%未満だった。会社や部下から苦労に見合った処遇やリスペクト受けずに、現場責任者として孤立無援の戦いを強いられている。

   原さんはリポートの最後で、

「課長の実像は、『人手不足を感じ、プレイヤー業務も含めて仕事量は増え、部下の育成に時間が割けないことに納得できていない...』といったもの。部下が、疲弊してしまっている課長を見れば、課長として仕事をすることに魅力を感じない、『なりたくない』と感じるのは必然」

と指摘。そして、頑張る課長たちにこうエールを贈っている。

「『次代の課長』の育成責任を負う課長は、仕事をすることの充実感や成功体験といった、マネジメントに関するポジティブな側面を積極的に『見せること』『伝えること』の必要性を認識すべきでしょう。
課長の仕事ぶりを部下と一緒に振り返る場をつくってみてもよい。部下から見た課長の仕事ぶりに対する印象や希望についてもオープンに共有する場を持つことで、部下の成長とともに、課長自身のマネジメント力の向上も期待できます」

「まだまだ試合でプレイしたい」と思う課長

   J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめた原義忠さんに話を聞いた。

――管理職である課長の約95%が、部下と同じ業務も並行して行うプレイングマネジャーであるという点が驚きです。いまの課長自身が若い頃に思い描いた課長像とは全く違いますね。ズバリ、どうしてこんな状態になってしまったのでしょうか。

原義忠さん プレイングマネジャーとは、野球でいえば、選手兼任監督。ベンチで選手にサインを送る監督が、そのつど自分で打席に立ったり、リリーフ投手になったりするようなものです。もう忙しくて大変ですよ。

一番大きな理由は、若手から中堅社員の採用競争が激しくなり、慢性的な人手不足になったこと。その分、業務量が増えて課長クラスにしわ寄せがきています。

また、働き改革が進み、労働時間が減ったことも大きいです。しかし、生産性を下げるわけにはいかない。求められる仕事の質のレベルが、以前よりはるかに上がっているのです。

そこで、会社側は課長に目を付けます。課長に早期に抜擢されるほどの人なら有能ですから、若手よりもはるかに仕事ができる。「キミも、まだまだプレイできるじゃないか」と持ち上げるわけですね。現在、課長のプレイヤーとしての価値が向上しているのです。

――なるほど。しかし、課長自身はどう考えているのでしょうか。かつてプロ野球では、選手兼任監督には南海の野村克也、ヤクルトの古田敦也、中日の谷繁元信らがいました。もっとも、球団からはそれなりの報酬・処遇を受けていたと聞いています。

原義忠さん 課長の処遇に関しては後で詳しく述べますが、課長の心の中に分け入ると、非常に複雑です。相反する2人の自分がいます。「まだまだ試合でプレイできる(したい)課長」と、「試合で若手を育てて、マネジャーとしてキャリアを積みたい課長」です。

現実問題として、課長はベンチで選手(部下)にサインを送るより、自分がプレイしたほうがヒットを打てるし、相手打者を抑えられると思っている。それは、おそらく正しい。

実際、部下よりも強打者だし、豪速球も投げられる。当然、会社はチームの勝利を求めているわけですから、勝利を目指して自分で代打、代走までやったほうが勝てる確率が高い。

また、自分のヒットで試合に勝ったりすると、正直、部下の活躍で勝つより嬉しいものです。「まだまだ自分はやれる。もっとプレイをしたい!」と思う。それが、仕事のやりがいになってしまう。

しかし、それでは選手(部下)は育たず、いつまでたっても試合で使えない。だから、課長が試合に出ざるを得なくなり、疲弊してしまうのです。負のスパイラルに陥ってしまうわけですね。

会社の本音は「課長は大過なくすごせばよい」

――試合で若手を育てながら、マネジャーとしてのキャリアを積む課長になるにはどうしたらよいのでしょうか。

原義忠さん まず、課長本人の気持ちを変えることが大切。自分のプレイによって勝つ喜びと決別して、高校野球の監督に撤するべきです。高校野球では監督が試合に出ることなどありえません。

高校野球の監督の喜びは、選手(部下)を育て、選手の活躍で試合に勝つこと。自分の采配で試合に勝つ醍醐味を味わうことができますが、当然、負けるリスクを覚悟しなければなりません。

――リポートでは課長の多くが、管理職としてデジタルの新知識やダイバーシティーなどを勉強して自己啓発に努めたいのに、会社からはコンプライアンスやリスクマネジメントの取り組みを求められ、自分のやりたいことの時間の余裕がないと嘆いています。

そのうえ、チームの勝利まで要求されるわけですから、課長は耐えるほかないのでしょうか。会社はもっと課長に手厚く支援するべきではないですか。

原義忠さん 「自己啓発の時間がない」というのは、先ほど述べた課長の心の問題もからんでくると思います。

「もっとプレイしたい」という気持ちがどこかにあれば、優先順序としてそちらに時間を割くでしょう。本気で自己啓発をしたければ、勉強時間はつくれます。課長自身が自分の時間リソース(資源)の使い方を徹底的に検証して、自分の成長や「やりがい」につながる時間を確保するべきです。

ただし、会社はそこまで課長自身のキャリアアップに期待していないという冷徹な現実は、認識しておくべきでしょう。会社が期待しているのは「大過なく課長を務めてくれれば、それでいい」ということです。

「役職定年制」で「終わった人」になる課長の居場所は?

――どういうことでしょうか。

原義忠さん 最近、「役職定年制」を敷く企業が増えています。課長や部長などの役職ごとに「定年」を設ける仕組みで、65歳までの雇用確保が義務化された現在、職場にシニア層が増えました。

だから、人件費を抑えると同時に組織の若返りを図るために、たとえば、課長が55歳までに部長に昇格しなければ、「上がり」として管理職から外れて「ヒラ」に降格になります。「終わった人」になるわけです。

キャリア終盤のカウントダウンが迫った課長に、会社は賃金アップやリスキリング(学び直し)の教育費負担などの投資をしません。その分の費用を若手や中堅にかけます。ただ、ハラスメント防止などの研修費はかけますが、それはチームに問題を起こしてほしくないからです。

多くの課長が役職定年後の「居場所」に困っています。それは、周囲の同僚や会社も同じように困っています。だからこそ、課長はプレイヤーとして存在価値を持ち続けたいという気持ちにもなるわけです。

――寂しい話ですね。団塊世代の私の場合、課長といえば、飲み屋に大勢の部下を連れて行き、豪快に飲んでも店から領収書をもらい、会社の経費でバンバン落としたものですが。

原義忠さん 当時は会社も、それだけ課長の役割に期待し、リスペクトしていたから交際費を出していたのです。現在では、希望退職の募集では40代~50代の課長世代がドストライクの対象に当たります。

課長は人件費のボリューム世代ですから、単価が高く、そこを削って若い人の初任給を高くして採用しようとします。投資の対象では課長は常に後回しです。また、自分に権限があり、会社から裁量を任され、高く評価されていると自信を持っている課長は4割に満たない状況です。

   <やっぱり罰ゲームなのか 課長の95%はプレイングマネジャーという調査報告...なぜ?自分が活躍したいから? 産業能率大学 経営管理研究所・原義忠さんに聞く「課長の悲哀」(2)>に続きます。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)



【プロフィール】
原 義忠(はら・よしただ)
学校法人産業能率大学 経営管理研究所 人事・マネジメント研究センター主席研究員

人事コンサルタントとして企業・組織の人事制度設計および導入支援に従事するとともに、講師として管理職研修や評価者研修に携わる。

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