「Z世代の若者は何を考えているかわからん」
そうお嘆きのミドルシニアのみなさん、若者に学んでみては?
近年のデジタル化急進展、ビジネスモデル大変革――。むしろ若者のほうが新時代への適応が優れている。
そこで、「リバースメンタリング」といって、若者が年長者を教育する制度を導入する企業も出始めているのだ。
若者にとっても、ミドルシニアを教えることはスキルアップになる。「双方ウィンウィン」という、第一生命経済研究所の福澤涼子さんの心温まるインタビューをお届けする。
上の世代に教えると、素朴な疑問が返ってきて勉強になる
<企業で始まった若手が年長者を教育する「リバースメンタリング」 なぜウィンウィンな制度なのか(1)/第一生命経済研究所・福澤涼子さん>の続きです。
――ところで、若い人が年配の人に教えるときの注意点はなんでしょうか。
福澤涼子さん まず、「最近の年寄りは使えない」とか「どうせ年寄りにITを教えたって、わかるわけがない」といった年齢差別(エイジズム)の意識に自覚的になることが大切です。
誰かに教えるという経験は自分のスキルアップにもなります。特に、上の世代に教えることは勇気が必要な経験です。マネジメント能力やリーダーシップを養う絶好の機会となります。
また、上の世代に教えると、思いもよらない素朴な疑問が返ってきて、自分自身の勉強になることがありますよ。「教えることが、何よりも学びになる」という言葉がありますから。
――どういうことですか。
福澤涼子さん また私の個人的な体験になりますが、私は現在、「高齢者のシェアハウス」の研究をしています。職場の先輩に仕事のことで教えてもらったあと、「替わりに聞いてもいい?」と老後にシェアハウスで暮らすことについて聞かれました。この「替わりに聞いてもいい?」という言葉も、年配者が若い人に教えを請う言葉として、とてもステキですよ。
その時、先輩から「シェアハウスでは犬は飼えるの?」と聞かれました。素朴な疑問ですが、長年一緒に住んでいるペットの存在は非常に大事なのだとあらためて気づきになり、調べるきっかけになりました。
うれしかったのは、先輩が「私もあれからシェアハウスのことをいろいろ調べた」と言ってくれたことです。上の世代にアドバイスしたことが役に立っているという実感がわきました。
若い社員が経営幹部に消費トレンドをレクチャーした事例
――いい話ですね。お互いに教え合ったことのアフターフォローをすると、人間関係が深まり、職場の雰囲気もよくなりますね。
ところで、企業が若い人が年長者に教える「リバースメンタリング」を導入している企業にはどんな特徴がありますか。
新聞報道によると、資生堂や世界最大の消費財メーカーP&G日本支社などで若手社員がメンター(助言・指導員)になり、経営幹部層にデジタル技術や消費トレンドなどを教えているそうです。
福澤涼子さん 両社とも、女性社員が多いのが特徴ですよね。たしかに社会全体でも、最近は働き方改革が進んでおり、特に女性社員の場合は子育てと仕事の両立が課題になっています。しかし、現代の経営層の多くは家庭を顧みずに働いて幹部になった人も多いと思います。そうした世代からすると、若い子育て世代の人が色々と進言することで、職場の働き方を見直すきっかけになっているのではないでしょうか。
また若い世代が最新のトレンドを先輩たちに教えるということもあるようです。昭和の時代は、テレビCMを打って流行をつくることができました。しかし、いまは発信チャネルも多様で、トレンドの移り変わりが激しい。その点、若い人のトレンドキャッチ能力は、経営に活かすことができる貴重なスキルです。
また、同じように海外の大手の消費財メーカーでは、若い社員がオンラインでの買い物の仕方を経営層にレクチャーしているそうです。たしかにいまの若い人たちは物を買う際にハッシュタグをつけて検索したり、TikTok、インスタ、YouTubeなどを見たりして、比較して判断しています。
こうした買い方を知らない年長者からすれば、販売戦略を検討する大きなきっかけになることでしょう。
威圧感が強いシニアと、気が弱い若手をペアにしない
――「リバースメンタリング」を導入するには、どういった点に気をつける必要がありますか。
福澤涼子さん 若手は経験が浅いため、教えることに慣れていません。特に経営幹部に教えるとなると、大変なプレッシャーになります。幹部1人に若手2人をつけるという事例もあります。また、ミドルシニアの中には「若造に教わるなんて、俺は嫌だ」という人もいるでしょう。
若い人が自信を失うと意味がないので、威圧感が強いミドルシニアと気が弱い若手をペアにしないとか、マッチングに配慮しましょう。また、事前の研修で「互いを尊重して学び合おう」「感謝を伝えましょう」などと、主旨や臨む姿勢を徹底させることも重要です。
――「リバースメンタリング」の目的は、主に経営幹部がイノベーションのヒントにすることにありますね。せっかくいい取り組みなのだから、一般のミドルシニア層と若手層の間に広げたらどうですか。
福澤涼子さん 私もそう思います。世界保健機関(WHO)が2021年に出した報告書によると、「年寄りは使えない」「若者は甘ったれている」といった「年齢差別」(エイジズム)の感情は、世界中で2人に1人が持っているといわれます。
こうした世代間を対立させるエイジズムは、交流頻度の少なさが偏見を招く要因の1つです。役職に上下は必要でも「学びに上下はいらない」と私は考えています。定年延長でシニア層が職場に増えているいま、リバースメンタリングの相手を年長者全員に広げて、お互いにフラットに学び合うようにすると、職場の雰囲気もぐっと明るくなるはずです。
TVドラマ『不適切にもほどがある』に学ぶ世代交流
――そもそも職場がフラットで、世代を問わず、何でも言い合える雰囲気があれば、リバースメンタリングも必要ないわけですよね。
福澤涼子さん 本当にそのとおりです。私は最近、昭和61年(1986年)から令和の現代にタイムスリップした男性が、「セクハラ」「パワハラ」言動を連発するコメディードラマ『不適切にもほどがある』(TBS系、主演:阿部サダヲさん)にハマって毎週見ています。
昭和では当たり前だった発言や考え方が、現代では「不適切すぎる」と問題視される世代ギャップが新鮮な驚きです。昭和の時代、みんなこんなにも包み隠さず、ズケズケとものを言い合っていたのでしょうか。
昔と現代、それぞれの時代の良さもあるでしょう。世代が違うこと。そこに着目すると、すごく面白いです。主人公の阿部サダヲさんは、令和に来て、たくさん学んでいます。人は何歳になっても学ぶことができるのです。
若い世代も、職場のシニアの方々がこういう時代を生きてきたことを理解して、「違いから学び取る」と職場がどんどん楽しくなると思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
福澤 涼子(ふくざわ・りょうこ)
第一生命経済研究所ライフデザイン研究部研究員、慶応義塾大学SFC研究所上席所員
2011年立命館大学産業社会学部卒、インテリジェンス(現・パーソルキャリア)入社、2020年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、同大学SFC研究所入所、2020年リアルミー入社、2022年第一生命経済研究所入社。
研究分野:育児、家族、住まい(特にシェアハウス)、ワーキングマザーの雇用。最近の研究テーマは、シェアハウスでの育児、ママ友・パパ友などの育児ネットワークなど。5歳の娘の母として子育てと仕事に奮闘中。