米国で電気自動車(EV)の販売が失速し、ハイブリッド車(HV)が上回ったとの報道が流れた。日本国内でも、広く普及している印象はない。
『自動車の世界史―T型フォードからEV、自動運転まで』(中公新書)の著者で、国際文化文化会館主任客員研究員の鈴木均氏に、EVの現状と今後を詳しく聞いた。
ハイブリッドが売れ始めた米国
EVをめぐっては、米Appleが開発から撤退との報道も出た。また2024年3月4日付の読売新聞によれば、米市場では23年4~6月期以降、3四半期連続でHVの販売台数がEVを上回った。英調査会社JATOが調べたものだ。
鈴木均氏によると、米市場EV販売失速の要因は、まず「EV以外の理由」がある。ロシアのウクライナ侵攻などで物価高騰が続き、EVに必要な車載用バッテリーやモーターに影響が出ているという。
そもそも「米国ではEV自体がブームではない」とも述べる。「自動車保険会社やレンタカー会社が意識調査を実施すると、都市部も地方もいまだにエンジン車への支持が根強く、そもそもハイブリッドにすら興味がなかったんです」。
米国では、日本であまりなじみがない「ピックアップトラック」が支持を得ている。車室の後ろに屋根のない荷台を備えた大型エンジンの自動車だ。これまでピックアップトラックには、高性能で一般家庭でも購入できるようなHVが少なかったという。
4ドア2列シートの「セダン」も人気だが、欧米製のHVは、5年ほど前までは燃費がいまひとつだった。だが、最近では燃費が良いHVも登場し、日本のトヨタを含めたHVが売れるようになってきた。「今、ようやくハイブリッドに置き換わり始めているという印象です」と、鈴木氏は語る。
高速道路では1回30分しか充電できない
「EV自体の理由」もある。「EV購入層が全体的に買って、一巡してしまった」点だ。修理費がガソリン車やHVより割高、充電スポットのインフラが整っていないという問題もある。
日本の場合、高速道路では1回30分しか充電できない。鈴木氏は「何度も充電する必要があると、パーキングエリア(PA)の各駅停車になってしまう」と例える。米テスラのEVは、日本のPAでは最大の持ち味である急速充電ができない。高速道路を一度降りて、テスラの充電スポット「スーパーチャージャー」に移動する必要があるという。
鈴木氏は、日本でEVが流行っていない理由に、国産HVの燃費の良さを挙げる。ゆえに、「地球環境への対応などのためにガソリン車をEVに置き換えることは、そもそも不要だった」。一方で欧米は、レンタカー会社がEVに置き換える需要があったのだ。
普及のカギ握るバッテリーと充電インフラ
今後のEV普及について、まず先進国での広がり方、長期的には爆発的に置き換わる可能性はあると鈴木氏はみる。
「EVのバッテリーは寒さに弱く、HVのようにエンジンに切り替えることもできない。バッテリー自体に改善の余地があります。また、充電インフラも整っていません」
だが、EV走行はエンジン車に比べ瞬発力が違い、圧倒的に静かに走れる。他の車に比べて「独特の良さ」があり、バッテリーや充電インフラの改善が進んでいけば普及が進むだろうと、鈴木氏。
また発展途上国での流行の可能性もあるという。普及自体は国の政策にもよるが、次のように考える。
「発展途上国では、1年中太陽が降り注ぐ地域が多いです。太陽光パネルを積んだEVを外に停車しておけば、電力普及にも繋がります」
すぐには実現しないだろうが、「全く可能性がないわけじゃない。むしろ先進国よりも普及する環境かもしれません」との見解を示した。
(2024年3月19日12時50分追記)一部内容を補足説明しました。