注目浴びるTOKYO BASEの「初任給40万円」、実は「公序良俗に反して無効」の可能性 弁護士が指摘する「固定残業代80時間分」の問題点

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   セレクトショップ「STUDIOUS(ステュディオス)」やファッションブランド「UNITED TOKYO(ユナイテッド トウキョウ)」を展開するTOKYO BASE(東京都港区)が2024年3月12日に新卒採用初任給を一律40万円に引き上げることを発表した。しかし、SNSでは、求人には給与に80時間分の固定残業代が含まれると記載されていることが話題となった。

   固定残業代を80時間分とすることに法的な問題はないのか。弁護士は、「公序良俗に反して無効であると判断されるおそれが高い」と指摘している。

  • TOKYO BASE公式サイトより
    TOKYO BASE公式サイトより
  • 初任給引き上げの発表。TOKYO BASE公式サイトより
    初任給引き上げの発表。TOKYO BASE公式サイトより
  • TOKYO BASEの求人。リクナビ2025より
    TOKYO BASEの求人。リクナビ2025より
  • 厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」より
    厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」より
  • 夜のオフィス街(イメージ)
    夜のオフィス街(イメージ)
  • TOKYO BASE公式サイトより
  • 初任給引き上げの発表。TOKYO BASE公式サイトより
  • TOKYO BASEの求人。リクナビ2025より
  • 厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」より
  • 夜のオフィス街(イメージ)

全従業員を対象としたベースアップも

   TOKYO BASEの発表によると、初任給一律40万円への引き上げは、学歴、年次に関わらず、24年3月入社以降の新入社員に適用する。また、2月(3月15日支給分)より全従業員を対象としたベースアップも行う。全社員の月額支給額が40万円以上になるという。

   一般社団法人労務行政研究所の「2023年度 新入社員の初任給調査」によると、東証プライム上場企業の初任給の水準は、大卒で22万5686 円、高卒で18万3388円だ。24年度の初任給引き上げの報道は相次いでいるが、40万円という高額な初任給は大きな話題となった。

   一方で、学生向け就職情報サイト「リクナビ2025」に掲載されているTOKYO BASEの求人を見ると、40万円のうち17万2000円は80時間分の固定残業代であることが記載されている。「固定残業代は残業がない場合も支給し、超過する場合は別途支給」とも明記されている。「月平均所定外労働時間」は空欄だ。

   80時間の残業は、「過労死ライン」とも言われている。SNSでは、固定残業代の時間数の大きさにも注目が集まり、反響を呼んだ。

過去の裁判例では「公序良俗違反」と判断

   労働問題を多く取り扱う旬報法律事務所の深井剛志弁護士は13日、J-CASTニュースの取材に、「固定残業代が有効かどうか」の観点として、「公序良俗に反するかどうか」が問題になってくると解説した。

   「一般的な社会常識や公の社会秩序に反するものは無効であるという法律(公序良俗)があります。現に、公序良俗に反して固定残業代の定めは無効であるとなった裁判例も過去にあります」と説明する。過去に固定残業代の定めが無効とされた事例では、TOKYO BASEと同じ月80時間分だった。公序良俗に反すると判断された理由については「過労死基準に匹敵するため」という。

「月80時間の時間外労働というのは労災の過労死基準に匹敵する時間数です。それと比較すると、今回(TOKYO BASE)も同じ時間なので、同様に公序良俗違反になるのではないかと思われます」

   また、深井弁護士は、この裁判例は18年時点のものだといい、その後に「時間外労働の上限規制」が導入されていることにも着目する。これは、時間外労働を行うには使用者と労働者の間で36協定の締結・届出が必要であるが、その時間外労働の上限が、原則として月45時間、年360時間になるというものだ。臨時的な特別の事情がある場合は、労使間で合意をすれば上限を超えることが出来るが、それでも年720時間が上限となる。45時間を超えることができるのは年6か月まで。大企業は19年4月から、中小企業は20年4月から適用された。

「(18年の裁判例の)判決が出た後、さらに残業時間の上限規制が設けられました。仮に毎月80時間残業するということになると、この上限規制を大きく超えるので、なおさら公序良俗に反して無効であると判断されるおそれが高いのかなと思います」

毎月80時間残業が前提でなくても「無効になる可能性はある」

   この固定残業代が実際に月80時間残業することを前提にしていた場合、「その固定残業代はおそらく無効になる可能性が非常に高くなるということに加えて、36協定の問題が生じます」という。

「仮に36協定がなかった場合には当然違法です。仮に36協定があり、臨時的な場合における上限の合意をしたとしても、45時間を超えることができる月は年に6か月までです。毎月40万払うという契約になっていますから、おそらく毎月80時間残業することを前提にしているのだろうと思いますが、そうすると、その45時間を超えることができる年6か月、720時間以内というのを超えてしまうので、おそらく36協定違反になると思います。残業代をいくら払っていたとしても、法的な問題が生じてくるのではないかと思います」

   仮に、固定残業代は支給されるものの、実際には毎月80時間の残業を前提としていない場合はどうなのか。深井弁護士は次のように指摘した。

「公序良俗に反するかどうかは、いろいろな要素を総合的に見て判断するということになっています。先ほどの18年の判決についても、実態として(残業)80時間を超える月が結構たくさんあったということを、公序良俗違反の理由の一つにしています。なので、実際に80時間の残業が前提になっておらず、そこまで多く残業をする実態になっていない場合は、もしかしたら判断が変わるかもしれません」

   一方で深井弁護士は、毎月80時間の残業を前提としていなくても「無効になる可能性はある」とも見る。

「そもそも法律で45時間までしか働かせてはいけないと決まっているのに、それ以上働かせることを前提にした固定残業代を設定して、実際には80時間働かせないから有効です、というのはおかしい話だと思います」

   18年の裁判例では、固定残業代について「(残業が)80時間に至っている月は無効で、至っていない月は有効だという考え方ではなく、全部が無効であるという考え方」だったと説明する。

「その後に上限規制が設けられていますから、法律で定められている上限に反するようなことを契約にしては良いのかどうかという問題は当然生じます。そうすると、やはり月80時間働くことを前提にしていなくとも、無効になる可能性は十分あると考えています」

   J-CASTニュースは13日、TOKYO BASEに実際の平均残業時間と36協定締結の有無について取材を申し込んだが、期限までに回答は得られなかった。

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