「いったいどちらが面接を受けているのか」
そう考えたくなるようなルールを、住友商事が取り入れることが複数のメディアで報じられ、話題になっている。
報道によれば、住友商事は2025年4月に入社する学生の採用面接において、学生が面接官を評価する制度を導入するという。
ユニークな取り組みとなりそうだが、導入のねらいは何か。就活に詳しい大学ジャーナリストに聞いた。
「若手社員、部課長クラス・役員クラスは面接に慣れていない」
評価対象は、面接官の態度全般。1次面接から最終面接まで、すべての面接が対象だとしている。また、学生の回答は完全匿名で、採用の結果には影響しないという。
あまり前例を聞かないこの制度について、J-CASTニュースBiz編集部は大学ジャーナリストの石渡嶺司氏に、導入の意図などについての分析を依頼した。
まず、本来なら面接を受ける側の学生に面接官の評価が任されている点について、それをあえてやることの意義について聞いた。石渡氏は、意義は2つあると説明する。
「1つは学生に対するアピールです。一方的に学生の良し悪しを見るだけでなく学生も評価できるようにすることで、双方向性、すなわち、風通しのよさをアピールすることが企業は可能となります」
また、2つ目については、
「もう1つは、面接担当者の暴走を防ぐ点です。人事部の担当者は面接に慣れていますし、コンプライアンス意識も高く、どのような質問がNGでパワハラ・セクハラととらえられるのか、熟知しています。しかし、序盤の選考を担当する若手社員、あるいは中盤以降の面接を担当する部課長クラス・役員クラスの社員は人事部社員ほど面接に慣れていません」
と指摘した。
「背景としては、長く続く売り手市場がある」
ではなぜ、このようなルールが出てくるのだろうか。石渡氏は、次のように説明する。
「背景としては、長く続く売り手市場があります。2010年代半ばからコロナ禍を含めて現在に至るまで、学生が有利な売り手市場が続いています。 住友商事ほどの人気ある大企業でも、人材を集めるためにはさまざまなアイデアを考えなければならない時代となっています。 さらに2020年代以降、コンプライアンスや人権についての意識が高まってきたことも見逃せません」
ということは、学生側に有利な状況といえるのだろうか。また、そうなれば、応募がどんどん増えるといった住友商事へのメリットにもつながるのだろうか。
「極端に応募が増えることは考えづらいです。ただ、双方向性が担保されていることで好感を持ち、志望しようとする学生は増えこそすれ、減ることはないでしょう」
なかなか正直に「低評価」をつけられない可能性は?
もっとも、学生による評価の結果は完全に秘匿されるというが、そうは言っても「自らが入社しようとしている面接官の評価」ともあれば、なかなか正直に「評価」を――場合によれば「低評価」をつけられないのではないだろうか。
これについては、石渡氏はすでに普及しているインターンシップやセミナー等の事後アンケートが参考になるのではないか、と語る。
「こちらを観察していくと、極端な低評価を付ける学生は少なく、無難な回答が目立ちます。 ただ、面接で『落ちただろうし、この面接担当者の態度は我慢ならない』と考えた学生は忖度することなく低評価を付けることが考えられます」
(J-CASTニュースBiz編集部 坂下朋永)