繁殖力が強く、駆除が難しいとされる「トコジラミ」は、国内でも生息が広がっているとも報じられている。そんな中で、首都圏の鉄道でも、電車のシートでそれらしき1匹を見つけ、自ら駆除したとX上で写真付きで投稿され、波紋が広がっている。
見つけたのは、JR宇都宮線の電車内で、下車した栃木県小山市内の小山駅で駅員に死骸を見せて報告したと取材に明かした。専門家によると、この死骸はトコジラミとみられる。JR東日本の大宮支社は、駅員が報告を受けたことを認め、写真投稿後に該当の車両を特定して殺虫剤散布を行ったと答えた。
セロハンテープでキャッチし、約5ミリの死骸をテープで包んで保管
シートだという布地の上に、茶色くて丸い小さな虫がくっ付いている。その姿は、ニュースなどで紹介されるトコジラミにそっくりだ。
この写真は、「ひろくま」さん(@PrectiveGallery)が2024年3月10日にX上で投稿した。投稿は、1万件以上リポストされており、写真が拡散している。
自治体サイトの注意呼びかけなどによると、トコジラミは、カメムシの一種で体長5~8ミリほどになる。「南京虫(ナンキンムシ)」とも呼ばれ、夜に活動して人の血を吸い、刺されると眠れないほど強いかゆみに襲われる。韓国で被害が広がって注目され、海外からの持ち物などを通じて日本にも入り込んでいるとされる。
23年11月には、大阪府内の大阪メトロ・谷町線の電車内でトコジラミを見つけたとX上で投稿され、波紋が広がった。写真などがなく真偽は不明だったものの、大阪・毎日放送のウェブ版記事によると、大阪メトロでは、谷町線全線で約1380車両を掃除機で清掃する事態にまでなった。
今回の投稿やひろくまさんがJ-CASTニュースの取材に答えたところによると、ひろくまさん夫婦は、10日17時50分上野発宇都宮行き電車の前から2両目に乗った。大宮駅を通過した後の18時30分ごろに、ひろくまさんのシートのすぐ横に、トコジラミらしき虫がいるのをボックス席の向いにいた妻が見つけた。生き物に詳しい妻がセロハンテープで虫をキャッチし、約5ミリの死骸をテープで包み込んで保管した。電車内は、空いていたが、ひろくまさん夫婦は、トコジラミの付着が怖くて立ち続けたと明かした。
「駅員に死骸を見せ、トコジラミらしいと伝えて対応を促した」
ひろくまさん夫婦は、下車した小山駅の改札で駅員に見せてこのことを報告した。この駅員は、「はい、分かりました」と答えるだけだったため、ひろくまさんがさらに対応を確認したという。
「トコジラミですよ? 電車のシートにいたんですよ? 大丈夫ですか? 一応死骸もありますが、どうしますか?」
ひろくまさんがこう聞くと、駅員は、「大丈夫です」と答えて、死骸を受け取らなかったという。ひろくまさんは、こうした対応について、「事の重大さを分かってない様子でした」と嘆いていた。夫婦では、トコジラミの繁殖を抑えるため、家に帰ってから、服を熱湯消毒するなどしたとしている。
小山駅を管轄するJR東日本大宮支社は3月12日、取材に対し、小山駅の駅員が乗客からトコジラミらしき虫がいると死骸を見せられて申告を受けたと事実を認めた。駅員が死骸を受け取らなかったのかなど詳細については、まだ確認中だとしている。
「列車内の写真も投稿されていましたので、車両を特定して、11日に殺虫成分を煙で拡散する車内燻煙を実施しました。投稿のように、15両編成の前から2両目です。その際に、車両内には、トコジラミは確認できませんでした。それ以外の列車についても、投稿を踏まえまして、注意して車内の清掃をするようにと関係個所に伝えました。トコジラミが見つかれば、薬品による殺虫ではなく、車内燻煙を実施することになります」
ところで、今回写真投稿があった虫は、本当にトコジラミなのだろうか。
専門家によると、投稿の写真はトコジラミとみられる
この点について、トコジラミの生態に詳しい日本環境衛生センターの環境生物課は3月12日、取材に対し、いくつかの写真からトコジラミとみられると明らかにした。
電車内にトコジラミが生息する可能性については、次のようにメールの回答で解説した。
「トコジラミは、ヒトジラミやケジラミのように人と一緒に移動することは基本的には少ないです。しかし、ご自宅でトコジラミが蔓延していることにご本人が気づいていない状況では、多数のトコジラミが衣服や持ち物に混入して、家の外で落としてしまう可能性はあります。衣服や荷物にいた場合、それが電車のシートに移動することは考えられます。その後、シートの隙間に潜み、肌の露出した部分から吸血し、再度シートの隙間に戻ることも考えられます」
どのような状況で被害に遭うかについては、こう述べた。
「トコジラミは密度が少ないうちは、積極的に衣服の中には入り込まないので、車内で被害に遭うとすれば、露出部がある状況で1時間程度、座席にじっとしていると、刺されることが想定されます。基本的には夜間吸血性で、明るい環境には積極的には現れませんが、吸血意欲が旺盛な個体(脱皮した後に数日間吸血していないような個体)では明るい環境でも出てくることがあります。定期的に清掃されている車内では、トコジラミが乗客の目につく可能性は低く、数百匹単位で見つかるような事態は考えにくい(1匹のメスが生涯で500卵を産むので、「数十匹」はあり得る)ですが、トコジラミは飢餓に強いので、駆除されなければ、隙間に潜んで生きながらえ、繁殖する可能性はあります」
トコジラミの生息を防ぐ電車内の対策については、こう指摘した。
「車内の座席シートを定期的に外して、吸引清掃し、殺虫剤噴霧(ピレスロイド系以外の成分)、高熱暴露、冷却スプレーなどの処理を総動員することが必要です。また、車内の生息状況を、乗客の目につかない部位に粘着トラップなどを設置して定期的に監視することが必要です」
「旅行先・出張先から持ち込まないように注意すべき」
トコジラミの生息が国内で広がっているとの見方については、こんな見解を示した。
「各関係団体の統計を見ると、コロナ禍後の駆除件数の増加割合は、インバウンドや海外渡航者の増加割合ほどは大きくないようです。その背景はインバウンド増加以前に日本の国内の住宅の一定割合で定着しつつあり、コロナ禍でもあまり減少していなかったことがあります。トコジラミが世界的に再興した2000年代に考えられていた要因として、2000年代当時、すでに人流はグローバル化しており、それが世界的拡散の一因とされていました。また、生息に気づきにくい、あるいは生息していても隠ぺいしてしまうこと、さらに、主な駆除用の殺虫剤(多くの家庭用殺虫剤の主成分であるピレスロイド剤)に対する抵抗性といったことが大きな要因と考えられており、この状況は2024年の今も変わっていません」
トコジラミの生息域拡大を防ぐために、どんなことが必要かについては、こう述べた。
「個人でできる対策として、徹底的に駆除する必要があり、一般家庭で自分の手で駆除するのは相当難しいので、まずは自分で旅行先・出張先から持ち込まないように注意すべきでしょう。宿泊先では荷物を床面に直接置かず、ベッドから離れた荷台に置くこと、心配であればバッグ全体にイカリジンといった虫よけスプレーを処理することや大きいビニールに包んでおくことで持って帰らないようにするといった自衛手段も必要かと思います。さらに、部屋に入った直後にベッド周りに血糞等がないことをまず確認することがいいと思います。自宅でトコジラミらしきものを見つけたら、すぐに捕まえて殺して、専門家に見てもらい、トコジラミであることが確定すれば、プロの専門業者にお願いするほうが安心です。特にマンションなどの集合住宅ではご自分の部屋でなく、隣接するお宅からの移動分散も考えられ、その場合、ご自宅だけ駆除してもすぐに復活する恐れがあります。実際に依頼する場合はペストコントロール協会などに問い合わせてきちんとした業者を紹介してもらうことが必要でしょう」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)
妻が帰りの電車のシートにトコジラミが居るのを発見してからガラガラだけど怖くて2人して立って帰ってる????????
— ひろ☆くま (@PrectiveGallery) March 10, 2024
イベントで疲れてるのに…???? pic.twitter.com/2f424SD6AP