若い世代に人気がある「格安スマホ」。利用者が一番多いのは、また、満足度が一番高いのはどこだろうか。
モバイル専門の市場調査を行うMMD研究所(運営元はMMDLabo、東京都港区)が2024年3月7日に発表した「2024年2月MVNOのシェア・満足度調査」によると、利用者がダントツに多い「OCNモバイルONE」が満足度ではシェア3、4位の「mineo」「IIJmio」に逆転される結果が出た。
いったい、なぜか。調査担当者に聞いた。
シェア1位「OCNモバイルONE」、満足度1位「mineo」
MMD研究所の調査(2024年2月2日~5日)は、スマートフォンを所有している18歳~69歳の男女4万人を対象に予備調査が行われ、その後、主要な「MVNO」(格安スマホ)の6つのサービスのユーザー(150人ずつ計900人)に本調査が行われた。
調査対象となったのは、「OCNモバイルONE」(オー・シー・エヌ・モバイルワン)、「楽天モバイル(MVNO)」、「mineo」(マイネオ)、「IIJmio」(アイアイジェイミオ)、「イオンモバイル」、「J:COM MOBLIE」(ジェイコムモバイル)の6つだ。
まず、4万人のうち、通信契約しているスマホを所有している3万6643人を対象に、メインで利用している通信サービスを聞くと、格安スマホを契約している割合は9.6%となった。
20年前の2014年調査からの利用率の推移を見ると、シェアは2014年の1.6%から、2019年には13.2%まで上昇している。
ところが、2020年に菅義偉内閣(当時)が「携帯電話料金値下げ」政策を打ち出して、大手キャリアが格安プランを打ち出した影響からか、2021年には9.3%に急落。その後、9.6%~9.9%台が続いている【図表1】。
どの格安スマホの利用率が高いのか。
格安スマホを契約している3515人にメインで利用しているサービスを聞くと、「OCNモバイルONE」(18.9%)と最も多い。次いで、「楽天モバイル(MVNO)」(15.2%)、「mineo」(13.3%)、「IIJmio」(12.2%)、「イオンモバイル」(7.2%)となった【図表2】。
続いて、主要6サービスの格安スマホ市場だけに占めるシェアの推移を見ると、前回調査(2023年9月)と比べ、独走状態を続けていた「OCNモバイルONE」(0.9%減)の陰りがやや目立つ結果となった【図表3】。
一方、主要6サービスの「総合満足度」を見ると、興味深い結果が出た。
1位は「mineo」(760ポイント)、2位に「IIJmio」(755ポイント)が入り、人気、シェアともにトップの「OCNモバイルONE」(751ポイント)が3位に後退した【図表4】。
「大手キャリアに負けるか」必死に耐える格安スマホ
格安スマホ業界に何が起こっているのか。J‐CASTニュースBiz編集部は、MMD研究所の調査担当者に話を聞いた。
――格安スマホ(MVNO)の利用率の推移を見ると、2019年までは順調に伸びていますが、2021年9月(9.3%)で底を打ち、その後、9.7%~9.9%で横ばい傾向が続いています【図表1】。
これは、格安スマホが伸び悩んでいるのか、それとも大手の安いサブブランド攻勢に耐えて頑張っているのか、どちらでしょうか。
調査担当者 まずピーク後の2020年11月の下落(12.3%)ですが、2020年は通信業界でさまざまな発表があった年でした。4月に楽天モバイルがMNO(大手キャリア)に参入し、MVNOの楽天モバイルが新規受付を終了しました。また、UQ mobileが10月にKDDIの運営となったことで、MVNOからMNOに移りました。こうしたことがMVNOの利用率が下がった要因かと思います。
次に2021年11月の下落(9.3%)ですが、2021年3月にLINEモバイルが新規受付を終了し、大手キャリアのオンライン専用プラン(ahamo、povo、LINEMO)がスタートしたことが、さらに下がった要因になると思います。
ただ、2022年2月には9.9%に回復して以降、横ばいが続いていることから、MVNO事業者もMNOに負けまいと必死の試行錯誤を続けている結果かと考えます。
「低料金」と「容量」の二兎を追う新プラン開始
――なるほど、格安スマホは頑張っているわけですね。具体的にはどんな取り組みを行なっているのですか。
調査担当者 若年層は他の年代と比べて契約している容量では「無制限」や「16GB~20GB」が多く、容量を使うことが分かっています。さらに、乗り換え・プラン変更を検討している理由では「料金が高いから」がトップにきており、容量が多く、料金が安いことで支持を得られるかと思います。
最近でいうと、2024年3月1日より「IIJmio」が大容量プランを開始しました。「格安SIM大容量の時代に!」と銘打って、「30ギガ月額2700円、40ギガ月額3300円、50ギガ月額3900円」という月額料金半額&5ギガ増量キャンペーンを行っています。こうした動きが広がる可能性があるかもしれません。
――大手と戦うために、「低料金」と「容量」の二兎を追って、身を削る努力を続けているわけですね。
ところで、【図表3】を見ると、利用率とシェアで業界トップに君臨してきた「OCNモバイルONE」がガクンと失速(0.9%減)、代わりに「IIJmio」(0.8%増)と「イオンモバイル」(0.5%増)の伸びが目立ちます。「OCNモバイルONE」は総合満足度でも3位です。
「OCNモバイルONE」に何が起こったのでしょうか。また、「IIJmio」と「イオンモバイル」が伸びたのは、どういう魅力があるからですか。
調査担当者 まず「OCN モバイル ONE」ですが、こちらは運営するNTTレゾナントがNTTドコモに吸収合併され、2021年10月にNTTドコモが「ドコモのMVNOエコノミー」を発表し、「OCN モバイル ONE」がその役割を担うようになりました。
そして、昨年(2023年)6月より新規受付を終了し、純粋に既存ユーザーのみとなりました。新規ユーザーの取り込みがないため、今後シェアは徐々に下がっていくと思います。
また、「IIJmio」と「イオンモバイル」ですが、2つの共通点としてあげられるのが複数人、複数台でプランのギガ数を共有できる点です。
ファーストスマホが早くなっており、家族みんなが1人1台スマホを持つ傾向になっています。ファミリー層は節約意識が特に強いですから、なるべく安く家族でシェアして使っていきたい人たちがこの2社を選んでいるのかもしれません。
「格安スマホは、格安航空より頑張っています」
――わかりやすい説明ですね。ところで、総合満足度1位の「mineo」は、前回調査(2023年9月)では4位でした。急に順位がアップしましたが、どんな魅力がユーザーの心をひきつけたのでしょうか。
調査担当者 新規ユーザーを取り込んでいるサービスに絞ったシェア順でいうと「mineo」がトップになります。低容量から中容量と価格を安く選べるプランはもちろん、データ通信使い放題がオプションで安く提供していたり、あまったギガ容量をプレゼントできる機能があったりと、幅広いユーザーの希望を取り込んでいます。
また、コミュニティサイトの「マイネ王」があり、悩んでいることをサイト内で解決できたり、ユーザー同士交流したりという点も魅力のポイントだと思います。
――格安スマホの今後の展望をどうみていますか。どうしたら、シェア10%の壁を突破できるでしょうか。
調査担当者 これまで格安スマホと大手キャリアの差は価格であり、通信品質でした。ただ、現在は通信品質の優れた大手キャリアが低価格プランを出しています。そのため、この状況を変える必要があります。
総務省も「モバイル市場競争促進プラン」で大手キャリアによる寡占市場の問題を指摘しており、まずは正しい競争環境を総務省が主導し、格安スマホがビジネスしやすい環境を整える責任があると思います。
また、格安スマはメイン回線の競争だけでなく、サブ回線や法人回線など大手キャリアNOと差別化を図っていくのが重要かと思います。格安スマホだけでなく「ahamo」「Y!モバイル」「UQモバイル」など格安SIM全体でみると4割を超えるシェアとなります。航空業界に目を向けると、国土交通省の調査では、「格安航空」と呼ばれる「LCC」のシェアは約2割弱です。
格安スマホ単独では、再編もあり、10%シェアは高い壁ですが、「低価格通信サービス」と考えると、「格安航空」よりは高い水準といえるかと思います。私個人としてもサブ回線で「IIJmio」を使っていますので、格安スマホの頑張りに期待したいです。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)