米国では男女別、人種別の影響の違いの研究が盛ん
――つまり、貸与奨学金が女性のその後の人生に負の影響を与えていることが観察されたということですね。
ところで、米国では奨学金負債者の急増に関連して、多くの実証研究を発表されているとありますが、米国では、今回のように男子学生と女子学生の人生に明確な影響の差が出た研究はありますか。それとも、日本独特の結果といえるのでしょうか。
王さん 米国では奨学金負債の影響に関し、多くの先行研究が蓄積されてきました。結婚と出産への影響でも男女の違いが検証されていますが、結論はさまざまで、一致するとは限りません。たとえば、結婚に関しては、こんな研究結果が示されています。
「学生ローン負債は結婚確率に負の影響を与える」(Stone&Horn 2012;Gicheva 2013&2016; Bozick&Estacion 2014; Addo 2014)。「結婚確率には関連しない」(Zhang、2013)。「結婚の満足度に影響を与える」(Dew、2008)。このうち、「Gicheva 2013&2016」、「Bozick & Estacion2014」 、「Addo2014」の研究では、奨学金負債はとりわけ女性の結婚を遅らせると結論づけています。
一方、出生に関連してもこんな研究があります。
「子ども数を下げ、出生率を下げる」(Nau&Dwyer&Hodson、2015)。「出生への影響は、親の性別人種別によって異なる」(Min&Taylor、2018)。米国では、性別だけでなく、人種別の影響調査も行われているのです。