福島県浪江町請戸(うけど)地区。海沿いのこの地域で2024年2月18日、東日本大震災以降中断していた行事が13年ぶりに復活した。津波で流された、くさ野(「くさ」は、くさかんむりに召)神社の社殿が再建され、伝統行事「安波(あんば)祭」が開かれたのだ。
祭りでは、伝統芸能「請戸の田植踊」が奉納された。踊り手の一人、横山和佳奈さんは町立請戸小学校4年生で、この踊りを習い始めた。被災したのは6年生のとき。現在は仕事の一環で、震災体験を人々に伝える「語り部」をしている。当時の生々しい記憶を伝え、次世代に引き継いでいく活動だ。
避難指示が解除されても...
浪江町は、11年3月11日に起きた東京電力福島第一原発の事故で、町内全域に避難指示が出た。横山さん一家も県内を移りながら、翌12日、郡山市に落ち着いた。そこで中学、高校生活を送り、宮城県仙台市の大学へ進学した。
請戸地区の避難指示は、17年3月31日まで続いた。この間、一時帰宅は許可されても、横山さん自身は請戸まで簡単に行ける手立てがなかった。避難指示が解除され、「帰っていい」と言われても、震災前に住んでいた人がどれだけ戻って来るのか。家族も、既に郡山が拠点だ。
一方、ふるさとへの思いは尽きなかった。理由の一つが、今も続けている「田植踊」だ。請戸は、離れようにも離れられない大きな存在。「震災を忘れて、今の生活になじめたらどれほど楽だろう」と思ったこともある。それでも、震災を伝える仕事に興味を持ち、就職先には、20年9月に開館した「東日本大震災・原子力災害伝承館」(福島県双葉町)を選んだ。