いま、福島に新しい風が吹いている。
浜通り地域を中心として、国内外の最先端技術の研究や製造拠点を呼び込む国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」が活気づいているからだ。
ここには、成長産業である宇宙開発やロボティクス、福島第一原子力発電所の廃炉にかかわる技術を有する中小企業、スタートアップやベンチャー企業が集う。
そして、福島からイノベーションを起こし、未来を拓いていこうとしている。
「いま、世界では宇宙産業の競争が過熱しています。宇宙を制する者が次の50年を制するとも言われ、1990年代に起きたIT企業の黎明期に近い熱量があります」
この発言が飛び出したのは「福島イノベーション・コースト構想」成果発表会(2024年2月28日)。参加した4社のトップによるプレゼンとトークセッションでの一幕だ。いったいどういうことか?
福島でしかできないフロンティア分野への挑戦、その現在地に迫る――。
廃炉で磨かれた技術を、次世代の産業に活かす
東日本大震災および原子力災害によって産業が失われた、福島県浜通り地域等で新たな産業基盤の創出を目指す国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」。
この地域の強みや特色を踏まえ、地元企業と連携しながら構想を実現し、持続的な産業発展を目指している。
【福島イノベーション・コースト構想】6つの重点分野
「福島イノベーション・コースト構想」は、6つの重点分野を軸とする。そのなかでキープレーヤーとなるのが、先端技術を有する企業の存在だ。
今回、都内で初めておこなわれた成果発表会では、成長産業の「宇宙」と、福島県にとって最重要課題である「廃炉」に焦点を当て、勢いのある4社が参加した(下の図表参照)。
いま、福島でどのような「挑戦」が進められているのか、トップが自ら語った。順に紹介していこう。
【福島イノベーション・コースト構想】メディア発表会:登壇企業
【大熊ダイヤモンドデバイス】
「福島第一原子力発電所の廃炉のプロジェクトが転換点になった」。そう語ったのは、大熊ダイヤモンドデバイスの星川尚久さん。
大熊ダイヤモンドデバイス・代表取締役 星川尚久さん/「ディープテック界隈で活躍している人が夢見るのは『世界を救ってみたい』ということ。いまこそ私も福島で挑戦したい」
同社はダイヤモンド半導体、およびダイヤモンド半導体デバイス(半導体を用いた電子部品)の製造で手腕を発揮する。
「(廃炉作業において)燃料デブリを取り出す際に使うロボットアームの先端に取り付けられる検出器が、極めて高い放射線下でもその影響を受けずに作動するためには、ダイヤモンド半導体が有効です。それだけにニーズも急速に高まっています」
しかも、ダイヤモンド半導体は、次世代の産業に欠かせない高いポテンシャルのある素材だという。たとえば、超高速通信インフラ、電動自動車(EV)。さらには、宇宙産業で必要となる衛星通信機器・レーダーにも活用される。
そのため同社は、福島県大熊町にダイヤモンド半導体を量産する製造工場を整備、2026年の操業開始を目指すなど、産業化に向けた動きも加速させている。
廃炉で磨かれた技術を次世代の産業に活かす――ダイヤモンド半導体が社会実装される日は近い。
【マッハコーポレーション】
人工衛星に搭載する光学センサー、それを用いた「耐放射線カメラ」を手掛けるマッハコーポレーションも、廃炉の取り組みで注目されている会社だ。
マッハコーポレーション・代表取締役社長 赤塚剛文さん/「アメリカのシリコンバレーにハイテク企業が集まりIT産業が発展し、世界をリードしているように――そんな世界を福島に築きたい」
高い技術力を活かし、宇宙以上の放射線量にさらされる廃炉の作業においても有効な「耐放射線カメラ」の開発に向け、JAXAとも協力しながら震災後10年近くかけて取り組んできた。
こうして完成した「耐放射線カメラ」には、500万gy(グレイ/グレイは、物質がどれだけ放射線のエネルギーを吸収したかを表す単位)の耐性がある。これまでの日本記録は200gy、世界記録でも1000gyだといい、世界でもオンリー1の高性能を誇る。
赤塚さんには、福島から世界へ羽ばたいていきたい――そんな強い思いがある。
「半導体や光学センサーの分野は、世界のなかで圧倒的に日本が進んでいます。いわば勝てるフィールドです。私たちが目指しているのは、福島にさまざまな産業が集まり、新たな製品が生まれること。私たちが光学センサーを供給し、そこからメーカーがモノをつくり、新たな輸出産業を育てる――そんな好循環を生み出したいです」