岐阜県岐南町の小島英雄町長の辞職が決定した。小島町長をめぐっては、文春オンラインの記事をきっかけに「岐南町ハラスメント事案に関する第三者調査委員会」が発足。調査報告書が2月27日に町に提出されている。
都内IT企業の人事部門で働くAさんは、報告書の公表日にさっそく目を通し、「全人事担当者に読んでもらいたい」と推奨する。
「不適切行為が満載なので、会社のハラスメント研修の教材にピッタリだと思うんです。自分がやっていることがセクハラやパワハラに当たるかどうか分からないとうそぶく人も、これだけ事例を見れば理解できないとは言えないでしょうね」
8割超の職員が知っていても止められない
調査では、町長と接触する機会のある職場に所属する職員のうち「あなた以外の町職員が町長からセクハラやパワハラに当たる行為を受けていると感じたことがある」と答えた人の割合は、男性で85.0%、女性で81.4%にのぼった。
職場にハラスメントが蔓延していながら、被害者が「週刊文春」に情報提供をするまで事態が発覚せず、止められなかったということになる。
報告書には「町長による不必要な身体接触・不快な言動の一覧」として99件のセクハラ認定事実が列挙されているが、すでに退職した職員も被害者もおり、これがすべてではないのだろう。
被害内容の中には、「頭をぽんぽんと撫でる」といったものから、強制わいせつ罪(現・不同意わいせつ罪)に該当する行為も確認されたという記載もある。
総務課長が、職員からセクハラ行為の告発があったのでやめるよう指摘したところ、「あの件は誰が言ったんや」と執拗に確認し続けるなど、悪質な「犯人探し」があったことも確認されている。
「気にいらないことがあると、すぐに『懲戒』『クビ』『降格』」
ただ、Aさんによると、セクハラだけでなくパワハラ部分も見落としてほしくないという。
報告書は、多数の職員に対して町長が「懲戒」「クビ」「降格」などの言葉を伴った恫喝を日常的に行っていたと認定し、中には違法行為に当たるものもあったと記している。
「町長からみて、適切な挨拶をしなかった職員に対しては、その場で、あるいは、後で、その者を(場合によっては、当該課の課長クラスの上司も含めて)呼び出し『なんで挨拶せんのや。』『ばかか。』『懲戒もんやぞ。』『降格やぞ。』『1階に飛ばすぞ。』などの罵声を浴びせるということが頻繁にあった」(報告書より)
職員の声として、小島町長は「気にいらないことがあると、すぐに『懲戒』『クビ』『降格』という言葉を伴って激高することが、頻繁であった」と記載されており、激高の場面を書いた部分もあった。
おそろしいことに、第三者調査委員会が立ち上がった後、調査委員会に協力すると「守秘義務違反」「職務に専念する義務違反」「警察の事情聴取が待っています」といった言葉を含む怪文書が配布される珍事があった。
これに対しても、文書の特徴から、町長自身が作成または配布に関与していると職員から指摘があったという。
Aさんは、ハラスメント行為がいかに不適切なものかもよくわかるところが報告書のポイントだという。
「町長のハラスメント行為が、まじめな職員の仕事へのやる気をいかに失わせているかがよく理解できるところが貴重ですよね。やりたい放題が当たり前になっているオーナー社長に読ませて、自分がやってることがいかに自社の価値を低下させているか気づかせたいです」
なぜ新聞テレビは「セクハラ」だけを記事タイトルにするのか
またAさんは、新聞やテレビといったマスコミの記事のほとんどが「セクハラ」のみに触れ、「パワハラ」を取り上げない点に不自然を感じたという。
「実際に報告書を読めばパワハラの記述もかなり多くあるのに、なぜ軽視するのかなと。もしかすると古い組織文化で働く新聞記者の方々は『セクハラの方が読者の目を引くぞ』としか考えず、パワハラは『この程度は我慢して当たり前』とあまり問題に感じていなかった、なんてことはないでしょうか」
たしかに、朝日新聞は3月3日の社説で「町長のセクハラ 外の目と耳が不可欠だ」とし、毎日新聞も「セクハラ問題で引責」(2月28日付け)などもっぱら「セクハラ」を記事タイトルに採っている。唯一、読売新聞だけが「セクハラ・パワハラ認定の岐阜・岐南町長」と併記したタイトルの記事を出している。