共産党から規約上最も重い「除名」の処分を受けた松竹伸幸氏(69)が2024年3月7日、処分は違法で無効などとして党員としての地位確認と550万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
松竹氏は記者会見後、弁護団長の平裕介氏と「裁判の意義と展望を語り合う」と題して対談。現役共産党員を名乗る男性が除名覚悟で発言する場面もあった。
「共産党袴田事件」最高裁判決との向き合い方は...?
松竹氏は23年1月19日に「シン・日本共産党宣言──ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由」(文春新書)を出版し、わずか2週間後の2月6日に除名処分を受けた。松竹氏は24年1月の党大会で再審査を求めていたが、却下されたため、訴訟に踏み切った。
松竹氏側は、除名手続きは違法だと主張。ただ、政党と党員をめぐる判例としては、いわゆる「共産党袴田事件」の最高裁判決(1988年)が知られている。共産党が、除名した党員が住んでいた党所有家屋の明け渡しを求めて起こした訴訟で、
「政党が党員に対してした処分は、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権が及ばない」
などとして、元党員側が敗訴している。
今回の訴状では、この判決について
「小法廷限りの判断であることに加え、民集登載判例(編注:最高裁判所民事判例集。重要な判例が掲載される)でないことから、その先例的価値はない。仮に、先例としての通用力があるとしても、上記説示は判例変更されるべきである」
などと主張している。
松竹氏を批判する共産党の機関紙「しんぶん赤旗」による名誉棄損も主張した。
「いったい松竹氏は、長い間党に在籍しながら、綱領を真剣に学んだことがあるのでしょうか」(23年1月21日)
「松竹伸幸氏は、日本共産党に対する『善意の改革者』を装っていますが、その正体が何であるかを自ら告白したものといえましょう」(23年2月8日)
といった記述がそれにあたるとしており、
「現在69歳の原告が、50年近くと人生の大部分を共産党員として過ごしてきた原告の本質に対し、原告が共産党を破壊等しようとする人物であると摘示し原告のアイデンティティーを全面的に否定するものであり、極めて悪質と言わざるをえない」
としている。
党員名乗り...「これはもう立ち上がるとき」
対談では、聴衆として参加していた共産党員を名乗る男性も発言。「これまで公然と動くことは控えてきた」というが、党大会で再審査が却下されたことで
「これはもう立ち上がるときだということで、あえて公然化を決意」
したという。ただ、その行為は規約が禁じる「分派」にあたる可能性もあり、
「公然と反党分子に協力したということで、今の共産党中央の解釈でいけば、一発除名に、多分これからなる」
とも話した。さらに、
「私はこれから仲間を広げていく。そうすると、続々と除名者が出てくる」
「続々と除名されていくと、共産党がなくなってしまうかもしれない。野党共闘の片方の柱がなくなってしまう」
とも危惧した。その上で、裁判の上で
「仮処分の決定みたいな緊急措置で、できないのか」
と質問した。平氏は、理論的には「まったくできないわけではないと思う」としながらも、「実際上は相当ハードルが高いというという印象は持っている」と、否定的な見解を示した。
提訴を受けて、共産党広報部は次の談話を発表している。
「松竹伸幸氏の提訴はまったく不当なものである。 松竹氏の除名処分は、党規約にもとづいて厳正かつ適正に行われたものであり、この処分が適切だったことは、党の最高機関である大会で再審査請求が審査され却下されたことによって、 最終的に決着済みの問題である。 そもそも、政党が『結社の自由』にもとづいて自律的な運営を行うことに対し、 裁判所の審判権が及ばないことは、 1988年12月20日の最高裁判決でも確認されていることであり、このような提訴は、憲法にてらしても成り立たないものである」
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)