「僕がいなくてもだれも困らない」 失意の若者が、田舎への転職で知った「働く喜び」(2)

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「あなたならでは」の仕事を任せているか

   Sさんのエピソードから読みとれることは、人は働くことで絆ができ、その絆が広がり深まることで、新しい希望をみいだしていくものだということです。

   そして、自分の存在や仕事が誰かの役に立っていることを実感できた時に、確かな働きがいを感じることができるのです。

   私は、Sさんのエピソードの意味を考える時、ある中小企業経営者から受けた、悩み相談のことを想起します。

   その経営者は、自分が雇う若手社員がすぐに辞めてしまい、何度補充採用しても次々と辞めてしまうことに悩んでいました。つい先ごろも、「この子は」と見込んだ女性社員が辞めてしまったというのです。

   そこで、私が、社員に日々どう接しているかを尋ねてみると――。

   「いやあ、辞めた子に任せていた仕事は、誰にでもできる簡単な仕事なんだよ。それなのに、なぜすぐに辞めてしまうのか?」とのこと。

   「オフィスワークだし、給料も悪くないはず。年の離れた上司のもとで緊張もするだろうから、気遣って、優しく声掛けもしているんだよ。ハードで難しい仕事で辞めてしまうならともかく、近頃の若者は本当にわからない」と嘆いています。

   私は「上司のあなたが『誰にでもできる簡単な仕事だ』と思い、本人にもそう伝えているから辞めるんでしょう」と話しましたが、経営者本人はポカンとして理解できない様子です。

「誰にでもできるというのは『別に、あなたでなくてもいい』と言っているのと同じなんですよ。それで誰が頑張り続けられますか」

   長年厳しい環境下で会社を潰すことなく経営の舵取りをしてきたものの、ここまで説明しても、働く社員の気持ちをまだ理解しきれない様子でした。

   Sさんのエピソードにあるように、自分の仕事が「私(Sさん)ならでは」と期待をされ、任されていること。それが人や社会の役に立っていると日々実感がもてることが大切なのです。

   経営者や上司のみなさんは、大切な部下一人ひとりを理解し、気持ちを尊重しながら、「あなたならでは」の仕事を任せているでしょうか? ぜひ問い直してみてください。

(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)



【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。近著に、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。

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