「僕がいなくてもだれも困らない」 失意の若者が、田舎への転職で知った「働く喜び」(2)

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   上司の言葉がけひとつで、モチベーションが高まった経験はありませんか?

   会社の中で実際に起きた困ったエピソード、感動的なエピソードを取り上げ、人材育成支援企業代表の前川孝雄さんが上司としてどうふるまうべきか――「上司力」を発揮するヒントを解説していきます。

   今回のエピソードを踏まえ、前川さんは「自分の存在や仕事が誰かの役に立っていることを実感できた時に、確かな働きがいを感じることができる」といいます――。

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「助かるよ!」と感謝で迎えられる日々

   <「僕がいなくてもだれも困らない」 失意の若者が、田舎への転職で知った「働く喜び」(1)>の続きです。

   冬場に着任したSさん。

   毎日、集落の家々を見周ります。住民のお年寄りが雪下ろしや薪割りに難渋しているのを見て、手伝いをかってでると、とても喜んで迎えられました。おじいさん、おばあさんからの感謝の声掛けが嬉しく、毎日のように手伝いをするようになっていきます。

「新しい孫が、1人増えたようだね~」
「助かるよ、いつも来てもらって!」

   お年寄りたちからとても感謝され、声をかけられる日々。Sさんも、明るい笑顔で応えます。

「Sさん、ありがとうね。うちで作ったいぶりがっこ、食べるかい」
「おーい、Sくんよ。お昼ごはんまだだろ。うちで食べてけよ」

   雪おろしのお礼に自家製の漬物をいただいたり、手作りの郷土料理をいただいたりと、村人の温かい気持ちが伝わってきます。最初は、嬉しくて涙が出たほどでした。

   Sさんはこう語ります。

「みなさんが笑顔になってもらえるようなことを、仕事にさせてもらえている。誰かのために一生懸命働けることが、すごく有難いんです。こんな仕事ができるなんて、僕はこの上なく恵まれているんじゃないかなと感じています」

   その後、Sさんは孫のようにかわいがってくれるお年寄りとのご縁から、集落に江戸時代から続いた伝統行事の山伏神楽(やまぶしかぐら)の復活に挑戦し始めました。

   過疎化で担い手が不足し、20年前に途絶えたといわれる伝統行事です。お年寄りから演目や舞い方を教わりながら、Sさんはこう語ります。

「神楽を教わり、復活に向けた活動は、休日にしようと考えていた日に重なることも多いんです。でも、全然苦になりません。むしろ楽しい。なんといっても、この村に縁もゆかりもなかった僕を、こんなにも温かく迎え入れてくれたおじいさん、おばあさんたちに恩返しがしたいんです」

   Sさんは、お年寄りの指導を受けながら伝統の踊りを懸命に覚えようと、とても真剣で充実した様子。指導するお年寄りたちの顔にも、充実感がみなぎります。

「僕ができることはちっぽけかもしれないけど、こんなにも役に立てているって思えるのは幸せです。本当にみなさんが支えてくれるから頑張れるんだなぁって。就活の時は働くイメージがわかなかったし、工場のアルバイトでは働きがいを感じられなかった。でもこの村に来てから、仕事って何なのかが、なんとなくわかってきたような気がします」

   Sさんはすっかり村に馴染み、今では「いなくてはならない存在」になっているのです。

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