地域おこし協力隊に志願!
そんな出来事があってしばらく経った頃。ネットでアルバイト探しをしているとき、Sさんはある求人情報に目を留めました。東北地方の過疎の村が募集する「地域おこし協力隊」の募集です。
「応募してみようかな...」
Sさんは、すぐに募集要項を取り寄せ、申し込み書類を提出しました。仕事の詳細はわかりませんが、少子高齢化で人口減少が進む村で、若者の力を呼び込みながら地域活性化のためのさまざまな仕事に取り組むとのこと。
縁もゆかりもない田舎で、聞いたこともない村でしたが、虚しく単調な生活を変えたいと考えていたSさんには、何か琴線に触れるものがあったのです。
なにより今のアルバイトを続けることに、気持ちの限界を感じてもいました。
Sさんは、当時の心境をこう語っています。
「毎日が単調な作業の繰り返しで、歯車のように働くだけで、『一体自分は何者なんだろう』と考え込んでいました。確かにお金は貯まるものの、どこか虚無感があったんです。僕だからできることで誰かの役に立てることがしたいと。協力隊の募集を見て、ピンときたんです」
無事に書類選考と面接をパスしたSさん。村からの委嘱を受け、現地に移住。1年ごとの更新契約で、最長3年の任期。1日8時間で、週5日の勤務。賃金は東京圏に比べるとぐんと低いものの、住まいには空き民家が貸与され、暮らしには困りません。
当面の職場は、お年寄りを中心に16世帯35人が暮らすY集落。お年寄りの暮らしを助け、集落の活性化のために、当事者の声を聞きながら、さまざまな活動を企画運営するのが仕事でした。
<「僕がいなくてもだれも困らない」 失意の若者が、田舎への転職で知った「働く喜び」(2)>に続きます。
(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)
【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。近著に、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。