日本企業は、もっと人間教育におカネをかけろ
――トランプ氏が再選されるかどうかもビッグイベントになりますね。
熊野英生さん トランプ氏の再選は、私個人としては、絶対に歓迎したくない事態ですが、ウォール街の一部は歓迎する動きになるでしょう。
トランプ氏は、脅しで言うことと、実際にやることが違います。最近、「中国に60%超の関税をかけてやる」と発言していますが、そんなことをすれば中国から多くの商品を輸入している米国国民が一番困ることは、彼だって承知しています。
2016年にトランプ氏が当選した時は、ウォール街は震え上がりました。しかし、実際は減税や財政出動を盛んに行ったため、ドル高が進み、株価が上昇する「トランプラリー」が始まりました。そのことを覚えているウォール街で、同じことが起こる可能性があります。
――いずれにしろ、日本としては、鯨が井戸の中で大暴れする事態は避けたいところですが、実質賃銀マイナス20か月連続の私たちにとって、「株価4万円突破」と言われても実感がわきません。
国民にその実感を持たせられるようにするには、日本企業はどうしたらよいと思いますか。
熊野英生さん 米国の株価に振り回されないよう、国内事業でしっかり稼ぐ体力をつける必要があります。現在の米国次第、他力本願の日本株上昇は、日本の現実だけをみると、明らかに過大評価です。
東証統計を見ると、1株あたりの利益(プライム市場)は拡大傾向になり、企業収益は堅調という評価です。しかし、株が割安か、割高かを見る「PER」(株価収益率)は2023年10月の15.2倍から2024年2月には17.2倍にまで上昇しています。
これは、1株利益以上に株価が上がっていることを示しており、企業収益がよくなる「実」の部分以上に、「虚」の思惑がふくらんでいる危険性が感じられます。
日本企業はもっと人間そのものにおカネをかけるべきだと思っています。従業員の教育コストにたくさんおカネを使い、能力開拓をどんどん進めるべきです。日本企業の社員の能力開発費はG7(先進7か国)の中で最下位、対GDP比で米国の20分の1、フランスの17分の1、英国の10分の1といわれます。株価上昇ばかり喜んでいる場合ではありません。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
熊野 英生(くまの・ひでお)
第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト(担当:金融政策、財政政策、金融市場、経済統計)
1967年山口県生まれ。1990年横浜国立大学経済学部卒、日本銀行入行。同行調査統計局、情報サービス局を経て、2000年第一生命経済研究所入社。2011年4月より現職。日本ファイナンシャル・プランナーズ協会常務理事。
著書に『インフレ課税と闘う!』(集英社)、『デジタル国家ウクライナはロシアに勝利するか?』(日経BP)、『なぜ日本の会社は生産性が低いのか?』(文藝春秋)など。