日経平均株価が、1989年末に記録した過去最高値を超えた。しかし、その割に自分の生活は全然改善しないという意見も聞こえてくる。
我々は実態経済と株式市場の関係を、どう捉えたら良いのだろうか。
実質賃金は下降する一方
まず景気を示す代表的指標である名目国内総生産(GDP)は上昇し、過去最高の591兆円に達した。物価も賃金もそれなりの上昇傾向を続けてきたためだ。その意味で日本経済は確かに成長してきたといえよう。但し、名目GDPをドルベースで見るとドイツを下回って世界4位に転落した。円安が進んだためだ。
名目GDPから物価変動の影響を除いた実質GDPは、2023年の10-12月に前期比0.1%減(速報値)とマイナスとなった。大きなマイナスではないので、一喜一憂すべきではなさそうだが、7-9月期から二期連続のマイナスということで、国際的な基準では「日本は景気後退期にある」とされた。円安に支えられた輸出やインバウンド需要は活況だが、肝心の国内の消費や投資がマイナスなのが足を引っ張っている。2024年1月以降については、能登半島地震等もあるので、短期的にはまだまだ困難な状況が続く可能性が高い。
景気が今一つなので、賃金の水準も改善しない。2021年以降、日本の(名目)賃金は上昇してきているが、それ以上に物価が上昇するという事態が続いている。そのため実質賃金は下降する一方だ。「暮らし向きは一向に良くならない」という庶民感覚は正しいのだ。
しかし、経済が芳しくなくても株価はこのところ大きく値上がりしている。そこには二つの理由がある。
多くの大企業は業績が好調も中小は...
一つは、日経平均株価が日本を代表する大手企業225社の株価の平均を示している点だ。現在、多くの大企業は業績が好調で、社員の給料も上昇傾向にある。
中でも日経平均を代表する4社、すなわちファーストリテイリング、東京エレクトロン、アドバンテスト、ソフトバンクグループは絶好調。この4社の株価は、本年に入り2月22日までに平均で四割近くも上昇した。日経平均株価は同時期に16.8%の上昇を記録したが、何とその半分近くがこの4銘柄の株価上昇によるものだった。日経平均を先導しているのは実質的にユニクロとハイテクと通信であると言って良い。
半面、数の上で圧倒的多数を占める中小企業は厳しい状態にある会社が多く、給料もなかなか上がらない。業種や規模による企業間格差がより鮮明になって来た。
もう一つは、株価は現在の企業の収益性を反映しているわけではなく、(理論的には)企業が将来に生むであろう利益の期待値を示していること。仮に会社のもうけがゼロでも、将来大きく成長していくだろうと多くの投資家が考えれば株価は高くなる。
実際、日本企業に対する海外投資家の視線は熱い。曰く、停滞する中国に代わって日本が復活する、アベノミクスの第3の矢である成長戦略が実を結びつつある、物価の上昇と賃金の上昇が相乗効果を起こして景気にプラスに作用する、といった見方である。これらの意見は昨年あたりから英米で盛んに喧伝されてきており、筆者はこれが昨今の株高の大きな要因の一つだと見ている。
今の我が国の実体経済は決して良いとは言えないが、株式市場は投資家の期待が先行して買いが優勢となっている。もしも投資家の読みが当たり、結果として景気も上向いてくれば良いが、経済が今後も長い間改善を見せないようであれば、株式相場も結局はしぼんでいくだろう。我々は市場の熱狂に浮かれることなく、冷静に状況を判断していくことが望まれる。(小田切尚登)
〇筆者プロフィール
おだぎり・なおと 幅広い分野で執筆活動やレクチャー等を行っている。バンク・オブ・アメリカ等大手外資系投資銀行数社で勤務した後独立。クラシック音楽サロン「シンフォニー」代表。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。『欧米沈没』(マイナビ新書)。