社員に個人事業主として独立を勧めたタニタ 7年でわかった「これからの人を活かす経営」とは【インタビュー】

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上司は部下のために、時間を割いて対話したいと思っているか

前川 ただでさえ少子高齢化社会なのに、AIなど技術革新による人材需要が変化し、人的資本経営が叫ばれています。
 大企業ほど早期離職問題が深刻化し、中高年人材のリスキリングも求められるなど、さまざまな情報が入り乱れています。そのなかで、人を大切に育て活かす常識も揺らぎ、カオス状態とも言えます。また、一人ひとりの価値観や働きがいも多様になっており、経営や人事のかじ取りの難易度も上がっています。
 御社は今後、人を活かす経営や人材育成にどのように臨もうとお考えですか。

谷田さん 人を活かすといった時に、私は、結局その人を愛しているか、好きかどうかだと考えています。愛などと言うと誤解されるかもしれないので、信頼関係と言ったほうがよいかもしれませんが...。
二瓶さん 「また、何を言い出すのか?」と、心配しましたよ(笑)。
谷田さん 「あの人どうしてる?」「今日は顔色が優れないけど大丈夫?」など、相手に興味や関心がもてるかどうか。相手との信頼関係を醸成するために、時間を使おうと思えるかどうかではないでしょうか。
 自分のことばかり考えて、相手に関心がないなら、そもそも人を活かしたり、育てたりするなど無理でしょう。経営トップからは社員一人ひとりに目が届きにくいので、現場の上司はもっと部下を見てほしいと思っています。
 それは部下管理云々ではなく、人間として。そのためには、相手とできるだけ一緒に仕事をする必要がある。一緒にキャンプに行くのでもいいのです(笑)。共に同じ時間を過ごし、同じ体験をしていくうちに、自然と親しみや信頼関係が生まれます。
 そして、相手が悩んでいたり、もう仕事を辞めようかと考えていたりしている時も、相手の心情を察してきちんと話ができるかどうか。時間を割いて対話がしたいかどうかは、やはり相手が好きかどうか、普段から関心を持っているかですね。
二瓶さん たしかに、基本のところで信頼関係があったからこそ、私も「プロジェクト」に乗って、躊躇することなく独立できましたからね。言葉遊びのようですが、信用というのは担保を取りますが、信頼はそれがいりません。たとえ一筆書いたものがなくても、信頼は成り立つわけです。

前川 まさに、会社と個人、上司と部下の信頼関係あっての個人事業主化だったのですね。
 今日は、話題になった「日本活性化プロジェクト」の「その後」をはじめ、これからの人を活かす経営について貴重なお話、有意義な意見交換を、ありがとうございました。


【プロフィール】

谷田 千里(たにだ・せんり):株式会社タニタ 代表取締役社長/船井総合研究所などを経て2001年にタニタ入社。2005年タニタアメリカ取締役。2008年5月から現職。レシピ本のヒットで話題となった社員食堂のメニューを提供する「タニタ食堂」や、企業や自治体の健康づくりを支援する「タニタ健康プログラム」などを展開し、タニタを「健康をはかる」だけでなく「健康をつくる」健康総合企業へと進化させた。

二瓶 琢史(にへい・たくし):株式会社タニタ 経営企画部 社長補佐/新卒入社の自動車メーカーを経て、2003年にタニタ入社。2010年から人事課長・総務部長を歴任し人事業務に携わる。2016年、社長の構想に基づき「日本活性化プロジェクト」(社員の個人事業主化)に着手、2017年に自らも個人事業主に移行してプロジェクトを本格スタート。現在は個人会社化してタニタ以外へも「日本活性化プロジェクト」を提案・提供中。

前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。近著に、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。

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