社員に個人事業主として独立を勧めたタニタ 7年でわかった「これからの人を活かす経営」とは【インタビュー】

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   健康計測機器メーカーのタニタでは2017年から、社員が個人事業主化を選択できる仕組み(「日本活性化プロジェクト」)に取り組んでいる。

   個人と組織が互いに対等な関係で貢献し合う、第三の働き方、会社経営に挑戦してきたタニタ。社員の自律的なキャリア形成を促進しつつ自立を目指し、会社としての創造性やイノベーション力の向上を目指す取り組みへの注目度は高い。

   人材育成支援を手掛ける、株式会社FeelWorks代表の前川孝雄さんが、タニタの「日本活性化プロジェクト」実施の経緯やその成果、今後の展望と課題などについて、深く話を聞いた。

(《お話し》谷田 千里さん(株式会社タニタ 代表取締役社長) 二瓶 琢史さん(株式会社タニタ 経営企画部 社長補佐) 《聴き手》前川 孝雄(株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師)

  • 写真左から、タニタ代表取締役社長・谷田千里さん、前川孝雄、タニタ経営企画部社長補佐・二瓶琢史さん
    写真左から、タニタ代表取締役社長・谷田千里さん、前川孝雄、タニタ経営企画部社長補佐・二瓶琢史さん
  • 写真左から、タニタ代表取締役社長・谷田千里さん、前川孝雄、タニタ経営企画部社長補佐・二瓶琢史さん

人材を囲い込まず解き放ちシェアすることで、日本は活性化する

   <タニタの「社員の個人事業主化」導入7年 「人が採れない、離職者が出て困る」悩む会社はトライすべき【インタビュー】>の続きです。

前川孝雄 日本企業の雇用改革の方向として、「メンバーシップ型からジョブ型へ」が語られがちです。
 それに対して、御社が取り入れている、社員が個人事業主化を選択できる「日本活性化プロジェクト」は、個人を生かす組織研究で高名な同志社大学の太田肇教授も提唱する「自営型」就業形態で会社と連携するという第三の選択肢にあたるのではないかと思います。
 過渡期にある日本企業において、「プロジェクト」の意義をどうお考えですか。

谷田千里さん 海外にはチャイナ・タウンやコリア・タウンはあるのに、ジャパニーズ・タウンはあまり聞きません。日本は日本人同士で争っている。たとえば、「和牛」と言って売り出せばいいのに、「〇〇牛」「△△牛」と地方ブランドで出荷する。農産物や酒、アニメーションも同じような状況を感じており、一致結束が苦手な民族なのかと思ってしまいます。

 数年間海外に赴任していたことがあるのですが、海外の方から見ると日本はとても小さい国であり、その中の地方によって違いがあるという認識は低いという印象を受けました。
 ですので、政府か経営者団体が主導して、皆で力を合わせて同じベクトルで進めば、競争力も格段に上がるのに、自分たち同士で潰し合っているように見えます。同じように、優秀な人材を自社内で囲みたがる。「副業」という言葉も、内部を大事にして外部は違うという思考なのだと考えます。

前川 なるほど。日本人は和を重んじ協調性を大事にすると言われますが、それはとても狭い範囲の「村社会」に限られている。各社が自社のことばかり考えて、人材も社内の囲い込みになっている、ということですね。

谷田さん それをやめて、優秀な人材を複数社でシェアし合えば、仕事の業績も本人の報酬もトータルでアップします。
 実は、これは私自身の教訓です。自社だけで売ろうと企画した商品は振るわず、他社と連携して一緒に手掛けた商品のほうが遥かに広がりヒットしました。
 お互いがその気になれば、ウィンウィンの関係がつくれます。だから私は、他社に「よい人材を貸してください」と言う前に、自社の人材を外に出そうと考えました。
 優秀な人を無理に囲い込んで離反されたり、会社が傾いた時に社員を市場に放出してしまったりするより、会社同士が人材を融通し合うほうが、メンバーも安心してロイヤリティを持って働いてくれるでしょう。そうすれば、世界市場でも全日本として闘うことができるのではないでしょうか。

前川 たしかに、今の雇用の仕組みでは、働く個人は自身の能力発揮の場として会社を1社のみに選択するしかない。しかし、複数の会社でシェアすることが普通になれば、働く場や活躍のステージもボーダレスになりますね。

谷田さん 同じ課題感を持つ会社が、タニタの仕組みを参考にして、連携の動きが広がれば幸いです。
 実際に電通さんでは、弊社の取り組みが報道された後に、独自の仕組みをつくられています。大変光栄に感じていますし、そうした社会的影響を与えられたことも、「プロジェクト」の一つの成果だと思います。
谷田千里さん
谷田千里さん

前川 私も電通さんが創設したミドル人材の幸せな独立支援会社である、ニューホライズンコレクティブの現場にうかがったことがあります。
 ここでは、自社人材の独立支援だけに留まらず、他社と連携するオープンなプラットフォームを目指されています。産業の新陳代謝のための人材流動化というより、こうした働く個人が自由で自立的に働くための人材流動化が広がるとよいですね。もっと大きなソーシャルインパクトになるとよいのですが。

二瓶琢史さん 私たちがこの取り組みを開始して7年経っても、まだ珍しいとされるのが実態です。もう少し早く、これが当たり前の世の中になるかとの予想もありましたが、思いのほか進みませんでしたね。

前川 日本は、国際比較調査で、雇用者のエンゲージメントが極端に低いのですが、フリーランスで見ると国際平均と変わらない。すなわち、自分が望む仕事を好きな時間や場所で行うことがモチベーションアップに重要なことは明白です。
 また、高年齢者雇用安定法の改正で、まだ企業の努力義務ですが、高齢者本人が望めば独立して会社との業務委託契約に移行することも選択肢に入った。こうした背景がありながらも、個人事業主化はなかなか進まない。一体なぜだとお考えですか。

谷田さん 一番のネックは日本の雇用制度だと思っています。
 会社がずっと手厚く面倒を見てくれて、教育もしてくれます。でも、そのことが自ら学ばず業務改革もしない人たちを生み出していると思います。この人たちは、いわば制度被害者です。
 米国のように、常に解雇があり得る仕組みでもいいのかもしれません。そうなれば、生き残るために自ずとみな本気で勉強しますし、長い目で見ればそれが本人のためになると考えています。
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