タニタの「社員の個人事業主化」導入7年 「人が採れない、離職者が出て困る」悩む会社はトライすべき【インタビュー】

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定期昇給や年功昇進で済ませるのは、マネジメントの手抜き

前川 「プロジェクト」は改善しながら、今後も継続する方針ということですね。

谷田さん 「プロジェクト」は人事制度の先端モデルと捉えています。
 プロジェクトメンバーとの契約は、メンバーが主として行う事業の部門長が担当しているので、部門長は業務委託メンバーの仕事を定期的に分析・評価する力が必要です。この仕事に対する成果や報酬の妥当性などをきちんと捉えることが求められます。他の事業者への業務委託においても重要なことで、社外へ発注する際の比較材料にもなります。
 ただしこれは、本来正社員についても行うべきことです。定期昇給や年功での昇進で済ませ、一人ひとりの仕事や成果をきちんと評価しないのはマネジメントの手抜きです。正社員の仕事についても、侃々諤々議論してもいいはず。
 「プロジェクト」は、人事のあり方のパイロット部分としても重要であり、継続に意義があると考えています。

前川 もしも他の企業が、御社の「プロジェクト」をロールモデルに、同様の仕組みを検討したいと考えた場合のアドバイスがあればお願いします。

谷田さん 第1に、独立メンバーから社内情報が漏れる心配はないか、という質問をよくいただきます。しかし、実はこの心配はないと考えています。優れた営業社員のノウハウは大切な社内情報です。その社員の心が離れ転職すれば、確実に転職先に伝わります。
 これに対し、独立して会社と業務委託を結んでいるなら、本人は自分固有の価値の源泉であるノウハウを安直に教えることはないでしょう。どちらが安全と思われますか、と。

前川 2つ目は?

谷田さん 第2に、採用に困らず社員も辞めない会社なら、この仕組みを入れる必要はないでしょう。ただ、「人が採れない、離職者が出て困る」と悩んでいるなら、トライしてみては、とお話しします。もはや社員を囲い込む方法では立ちゆかず、打つ手がないなら、何もしないよりはずっとよい方法だというわけです。

前川 なるほど。そういう考え方もありますね。

谷田さん 第3に、なんといってもメンバーのモチベーション向上です。
 結局、本人がやりたいと思う仕事をやりたいようにやることが、一番モチベーションが上がるのです。特に大企業なら余裕もあるでしょうから、若干本業から離れた仕事でも本人がやりたいならチャレンジしてもらってみるとよいのです。
 よく聞くのは、社員のMBA留学を支援したら、留学後に会社を辞めてしまうということ。そうであれば、報酬を払って好きな仕事をしてもらうほうがいい。成功すれば新規事業として提携して、ウィンウィンでいく。
 失敗したら「貸し」にして(笑)、別の機会で会社のために働いてもらう。いずれも本人はモチベーション高く働き続けてくれるでしょう。

前川 いまや社員の離職や定着に悩まない企業はないでしょう。それだけに、谷田さんご自身が経営にもがき悩んで至った境地は沁みるはずです。
 旧来の日本型雇用で社員を囲い込もうとするのではなく、社員を自由に解き放つことで辞める理由を失くしてしまう、まさに逆転の発想ですね。

   2月16日公開予定の<社員に個人事業主として独立を勧めたタニタ 7年でわかった「これからの人を活かす経営」とは【インタビュー】>に続きます。


【プロフィール】

谷田 千里(たにだ・せんり):株式会社タニタ 代表取締役社長/船井総合研究所などを経て2001年にタニタ入社。2005年タニタアメリカ取締役。2008年5月から現職。レシピ本のヒットで話題となった社員食堂のメニューを提供する「タニタ食堂」や、企業や自治体の健康づくりを支援する「タニタ健康プログラム」などを展開し、タニタを「健康をはかる」だけでなく「健康をつくる」健康総合企業へと進化させた。

二瓶 琢史(にへい・たくし):株式会社タニタ 経営企画部 社長補佐/新卒入社の自動車メーカーを経て、2003年にタニタ入社。2010年から人事課長・総務部長を歴任し人事業務に携わる。2016年、社長の構想に基づき「日本活性化プロジェクト」(社員の個人事業主化)に着手、2017年に自らも個人事業主に移行してプロジェクトを本格スタート。現在は個人会社化してタニタ以外へも「日本活性化プロジェクト」を提案・提供中。

前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。近著に、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。

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